研究実績の概要 |
近年の厚生労働省の施策(オレンジプラン)において、認知症高齢者が可能な限り在宅で生活することを推進している。在宅での介護を担うのはおよそ4分の1が配偶者であり、この状況は10年以上変化していない(厚生労働省,2010)。子供世代との同居率は年々低下の一途をたどっていることから介護を担う配偶者の支援が重要である。配偶者が介護を担う場合には、自らの老い、病を抱えながらであり、身体的な負担から精神的にも追い詰められやすいといえる。介護家族が現在の困難に意識を向けすぎて精神的に疲弊することを回避するために、長年ともに生活し、様々な困難を乗り越えてきたことに“夫婦”で意識を向けなおす、カップルライフストーリープロジェクトを実施した。 3年間で36組の夫婦を対象として調査を実施する予定であったが、リクルートすることが非常に難しく、リクルート先を開拓したものの、最終的に13組の調査を実施することができたにとどまった。膨大な量の写真の中からいくつかの写真を選択することや、自宅に他人を招き入れることなどの負担が想定以上に大きい弊害となっていた。 研究結果としては、13組であるため統計的な分析は難しいものの、家族介護者の介護困難感は軽減される可能性が示唆された。特に、介入前のスコアが高い介護家族ほど低下しており、夫婦で過去を振り返ることの効果を意識した専門職の介入が必要と考えられた。ただし、日本の高齢者の中には、夫婦の関係性がよくないまま結婚生活を継続している夫婦もおり、介護者が一方的に被介護者への不満を語るケースもあった。そのような場合には、初めに介護者の話を聞いてから夫婦のセッションを始めるなど、臨機応変な対応が求められ、実践への応用を進める際には注意事項を明記する必要があると考えた。
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