ヒトは3秒に1回の頻度で瞬きをしている。眼球湿潤には15秒に1回で十分であるため、一体何のために頻回に瞬きをしているのか未だに大きな謎である。本研究は自発的な瞬きの機能的役割とその神経機序を明らかにすることを目的としている。本年度は、2つの研究を行った。(研究1) 瞬きは1分間に数回しかしない人もいれば50回以上する人もいるように、非常に個人差が大きい。そこで、その瞬きの大きな個人差に着目し、それと相関して脳の容積が変化している領域があるかを調べた。MRI装置を用いて、54名の健常な成人の脳の構造画像を撮像し、さらに、映像を見ているときの自然な瞬きの頻度も計測した。その結果、右の角回のみ、瞬きの頻度の高い人ほど、脳の灰白質の容積が大きいという正の相関を示すことを発見した。さらに、その領域のTMSを用いて磁気刺激により活動を阻害したところ、映像観察時の自発的な瞬きの頻度が低下した。これらの結果から、右の角回の領域が瞬きの発生頻度の調整に関与していることが明らかとなった。以上の結果を論文にまとめて、国際英文誌にて発表した。(研究2)次に、瞬きの発生頻度は、覚醒・ストレス・情動などによって個人内でも非常に大きく変化することに着目した。そこで、覚醒や情動によって大きく活動が変化する自律神経の活動と自発性の瞬きの発生に関係があるかを明らかにするために、40分間映像を自由に視聴しているときの、瞬きと心拍数の活動を同時に計測した。その結果、瞬きの度に、その数秒後に一過性に心拍数の上昇が生じることを発見した。さらに、呼吸と汗腺の活動を調べた結果、呼吸は瞬きに伴い変化がみられない一方、汗腺の活動は瞬き直後に増加することがわかった。以上のことから、交感神経活動が瞬きに伴い、一過性に亢進していることが考えられる。これらの結果から、瞬きは覚醒レベルの制御に関与していることが初めて明らかとなった。
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