研究課題/領域番号 |
25700016
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研究機関 | 株式会社国際電気通信基礎技術研究所 |
研究代表者 |
吉田 和子 株式会社国際電気通信基礎技術研究所, 脳情報通信総合研究所, 主任研究員 (30379599)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 脳イメージング / 社会的意思決定 / 観察学習 / 強化学習モデル |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、社会的環境における意思決定、特にその相互作用に関わる情報処理過程と脳内基盤を明らかにすることである。本年度は、被験者2名による観察行動課題を設計し、その意思決定過程の計算モデルを提案した。提案課題を実装し、複数台のfMRIを用いた認知行動実験により脳活動を計測した。 本研究では、観測学習に対して他者と自己の確信度が与える影響を調べるため、確率的学習課題を用いた実験を行った。各被験者は事前に、複数のフラクタル画像を用いた2本腕バンディット課題を単独で学習する。その後、2被験者で同様の課題をお互いの行動選択と反応時間を観測しながら交互に行う。観測学習課題では選択に対する結果は呈示されず、また刺激に新奇フラクタル画像も含まれるため、他者の行動からその価値を推定学習することが有効となる。従来の行動予測誤差を用いた強化学習法に、学習係数の確信度による制御を導入したモデルを提案した。本モデルでは、他者の行動と反応時間の生成モデルとしてDrift Diffusion Modelを仮定し、他者の信頼度を推定する。一方、自己の確信度は行動予測誤差に基づき更新する。被験者20名による行動実験を行い、提案モデルが従来モデルより行動を良く説明することを確認し、成果を国際会議で口頭発表した。 次に、被験者9ペア、計18名によるfMRI実験を実施した。モデルに基づく脳画像解析により、2つの確信度および予測誤差が外側眼窩前頭皮質(lOFC)の隣接した領域で表現されることを示した。この部位の機能的活動は、社会的意思決定実験で広く観測されており、また、最近の脳構造画像研究によりlOFCの灰白質の厚さと個々人の社会性に相関があることが示されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、他者行動の観察に基づく意思決定課題を提案し、理論モデルの構築および脳活動計測実験を行う計画であった。実験課題の設計には、計画していた2本腕バンディット課題に両方の被験者にとって未知の刺激を取り入れることにより、より新奇性が高い課題を提案することができた。理論モデルには、計画通りDrift Diffusion Modelを他者行動の信頼度推定に導入するとともに、自己の信頼度も更新するシステムを導入し、さらに精度の高いモデルを構築することができた。提案した理論モデルを用いて行動実験データの解析を行い、成果を国際会議で発表した。実験課題設計と理論モデル構築については、当初計画よりも高度な課題/計算モデルとなっており、検証実験も計画通り順調に進展した。 また、提案課題を用いた複数人fMRI同時計測実験を行った。計画通り、データの前処理および基礎的な解析を終了し、報酬に基づく意思決定に関わる脳内基盤を明らかにした。さらに、提案した理論モデルに基づいて脳活動データを解析し、これまで社会的意思決定に関わるとされてきた脳部位での活動度が観察学習効率に相関することを示した。この結果を検証するためには、さらなる解析が必要であるが、脳画像解析についても当初計画通り順調に進捗している。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、平成26年度に行った実験データのさらなる解析と理論モデルの改善を行い、論文として投稿する。理論モデルに関しては、従来型モデルとの相違を明確にするための行動シミュレーションを重点的に行い、必要に応じて行動実験を行う。また、未知刺激に関する学習過程と被験者の性質との関係を明らかにするために、様々な条件下での未知刺激学習に焦点を置いた課題を設計し、行動実験を行う。平成26年度に行った脳画像解析結果によって得られた、社会学習に関する脳活動部位について、デコーディングやネットワーク解析といった最新の技術を用いたより詳細な解析を遂行する。 また、集団における意思決定課題を構築し、脳内情報処理モデルの提案と検証実験を行う。特に、集団内に社会的階層や役割が存在する状況下での意思決定に着目し、立場によって自己および他者への信頼度が変化することを説明するモデルを提案する。提案課題を用いて複数人被験者による行動実験を遂行する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度に、観察学習課題および階層的集団意思決定課題を用いた2種類の実験を行う予定であったが、観察学習課題の計算モデルを当初計画より発展させたものにしたため、検証実験により多くの時間を費やすことになった。そのため、集団意思決定実験の遂行を次年度に延期したため、実験費用として未使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
集団意思決定のfMRI実験を次年度に行うこととし、未使用額は計測機器の貸与費用および被験者謝金に充当する計画である。
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