本研究では、集光レーザービームの光摂動技術を神経細胞内分子動態の能動操作に応用し、光摂動に伴い変化する神経細胞ネットワークの時空間ダイナミクスを明らかにする。レーザー光摂動を用いて神経細胞のシナプス結合部位に局在する機能分子集合体を操作し、神経細胞の脱分極過程を操作する技術を開発することにより、レーザー摂動による神経細胞ネットワークの時空間制御の実証を目指す。 本年度は、昨年度に引き続き興奮性神経伝達において主要な受容体であるAMPA型グルタミン酸受容体分子を対象として、神経細胞シナプス部位に局在する量子ドット標識AMPA受容体の光捕捉過程の蛍光相関分光解析および一粒子トラッキング解析を行い、光ピンセット用近赤外レーザーのレーザー集光領域においてAMPA受容体の分子運動が低下するメカニズムについて考察した。また、細胞表面分子を効率よく捕捉する手法として、表面プラズモン共鳴を利用した光捕捉について検討し、量子ドット標識AMPA受容体分子の光捕捉過程において有効な結果を得た。さらに、集光フェムト秒レーザー照射に伴う神経細胞の光刺激メカニズムを明らかにするため、蛍光カルシウムイメージングに加えて薬理実験や神経活動電位計測を行った。フェムト秒レーザー照射に伴い細胞表面に多光子吸収に基づく微小穿孔が生じ、細胞外溶液が神経細胞内に流入し、細胞内の小胞体を活性化することにより細胞内カルシウムイオン濃度が一過的に上昇する一連のメカニズムを明らかにした。
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