研究課題/領域番号 |
25700038
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研究種目 |
若手研究(A)
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
美添 一樹 東京工業大学, 情報理工学(系)研究科, 東工大特別研究員 (80449115)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 並列探索 / ゲーム・プログラミング / 人工知能 / モンテカルロ木探索 / 囲碁 |
研究概要 |
計画通りモンテカルロ木探索の大規模並列化の研究を行い、特に囲碁を含む現実の問題で高性能を発揮することを目標としている。2013年度当初までの申請者らの研究では仮想的なゲームでは4,800 コアで約3,200倍、2,400コアで約1,600倍の高速化を達成していたが、囲碁に適用した場合は1,200コアで300倍程度の高速化にとどまっていた。これはデータ構造の大きさや分岐数が一定でないことによるもので、多くの実際の問題でも障害となると思われる。2013年度の主たる成果として、当初の研究計画でも挙げていた通信の負荷を減少させる改良などによって囲碁においても2,400コアで約1,350倍という仮想ゲームの性能にかなり近い高速化を実現した。 また、計算機の性能(特にネットワークの性能)がアルゴリズムの性能に与える影響を調査するため、複数の計算機環境で詳細な実験を行った。高速なネットワーク(InfiniBandなど)を用いた計算機(東工大TSUBAMEなど)と安価なギガビット・イーサネットで接続されたクラスタで性能を比較し、結果としてギガビット・イーサネットを用いた場合は120コア(8コアの計算機を15台接続)で45倍程度の高速化が限界であることを示した。(なお、探索の並列化の難しさを考慮すると、45倍程度でも十分に有用な成果であると言える。) また、研究目的でも挙げた他のグラフ探索への応用として、数値制約充足問題の並列ソルバの研究を行った。この分野では並列化が行われていなかったが2013年度の研究では256コアを用いて120倍程度の高速化を達成した。 しかし大規模並列探索の実験中を通じて、耐故障性の重要性を認識した。コア数が数千に達すると、ハードウェア故障、ソフトウェアの不具合などに耐えて無事に動作する仕組みがより重要となる。今後は耐故障性の研究を目的に加えることを検討している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画に挙げた項目の内、a, メモリ速度差を克服する並列グラフ探索手法、d, 他のグラフ探索への応用、については既にある程度達成されたと言える。今後はb, 確率的アルゴリズムであるための弱点の解消法、c, 並列囲碁プログラムの実装および強さの検証、に重点を置く。 特に、本研究計画の基幹となる大規模並列モンテカルロ木探索について、アルゴリズムの速度は目標としてた数値に近い性能を達成した。この点においては順調に進展していると言える。実験データの収集に予想より時間がかかり、現在論文を投稿中である。応用として数値制約充足問題の並列ソルバの研究を行ったが、同様に論文は現在投稿中である。 研究実績の概要で述べたように、当初の研究計画には含まれなかった問題として、耐故障性の問題が浮上した。 数秒で応答する必要があるリアルタイムな意思決定のために大規模並列計算機を利用することは申請者の知る限り既存研究がなく、難しい課題であると思われる。しかしながら今後の計算機の進歩を考えると当然ながら1,000コア以上の大規模並列計算機をリアルタイム処理に用いることも必要であり、重要な課題である。
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今後の研究の推進方策 |
上述のように当初からの研究目的で述べた目的のうち、並列探索アルゴリズムはある程度確立され、さらに他の問題への応用も開始している。残る課題として、モンテカルロ木探索と他の探索アルゴリズムの組み合わせによる確率的探索であることの弱点の克服、機械学習の応用による性能向上、の解決を通して並列囲碁プログラムを強化することを目指す。 耐故障性の問題は当初の研究目的には含まれていなかった新たな課題である。これはアルゴリズム自体の性質、ハードウェアの故障の可能性、さらにOSなどのソフトウェア/ミドルウェアのバグなどが絡み合った複雑な問題であり、どの程度の研究期間が必要なのか見積もりも今のところ難しい。しかし2014年度以降は耐故障性の獲得へ向けた研究も行う予定である。既にスーパーコンピュータの運用の専門家の助言などを得て研究に着手している。
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次年度の研究費の使用計画 |
以下の2つの理由により一部の計算機の購入を 2014年度以降に先送りしたために残額が生じた。1, 円安によって計算機の値段が高騰したため、2013年度は必要最低限の計算機を購入するにとどめた。2, Intel社製の新製品である Haswell プロセッサが備える新たな命令セット (AVX2) が有用である可能性があるが、計算サーバ用の Haswell 相当のプロセッサ (複数ソケット対応のプロセッサ、Xeon) が2013年度にはまだ供給されていなかったため。 研究の円滑な進行のために、可能な限り2014年の半ばまでにクラスタの増設を行う予定である。
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