研究課題
若手研究(A)
本研究の目的は ,①これまでの相対変動解析を主体とした生物源炭酸塩の安定同位体比による環境変動解析から,海洋そのものの同位体値復元に基づく絶対変動解析への変革を目指すこと,そのために②微小領域の安定同位体比分析を用いて海洋の底層・中層・表層それぞれの正確な同位体組成を抽出して鉛直構造を復元する方法を確立すること,また,③世界唯一の分析技術に対する国内外の幅広い需要に応えるために確固たる研究基盤を構築し,その維持と改良を継続することである.平成25年度は,○微量炭酸塩安定同位体分析を用いて,これまで分析することができなかった微細な有孔虫殻の安定同位体組成を1個体毎もしくは部位毎に定量して,同種内の同位体組成個体分散を見積もった.さらに,浅海性生物源炭酸塩であるコケムシの現場飼育サンプルの同位体温度計としての信頼性の検証をおこなった.また,これまで検討していなかった魚類耳石(水産資源として重要な魚種を主として)の安定同位体組成の基礎データの集積を開始した.○安定同位体比質量分析計を導入し,自作の微量分析用前処理装置の設置調整を開始した.これらは自作のハードウェアとソフトウェアをベースに開発した総合分析システムとなり,生物源炭酸塩(微小領域~)と周辺水のダイレクトな比較を一元管理下で行うことが可能で,次年度以降,環境指標としての厳密な評価と新たな環境指標の構築に活用できる.
2: おおむね順調に進展している
これまで行ってきた研究の発展,および新規の研究対象への分析技術の活用を実践することが出来た.また,当該研究テーマに沿った,新たな萌芽的な共同研究提案も進んでいる.また本研究の研究目的に,世界最高水準の分析システムを活用するための安定基盤の確立を大きな柱としている.本年度は安定同位体比質量分析計の導入,微量分析システムの構築と調整作業を順調に遂行することができた.現在のところ分析精度の検証と安定性の向上に向けた最終調整作業中であり,今後の当該研究の発展に向けた確固たる基盤が確立しようとしている.特にこの点は当初想定した以上に順調な達成度だと言える,
これまでの経験をもとに,微量炭酸塩安定同位体比分析システムの立ち上げと最適化を継続する.また,高精度の微量炭酸塩安定同位体比分析を維持するため,システムの調整と消耗部品の定期交換をおこなう.開発者が責任をもって維持管理を継続することによって,分析精度の維持とデータに対する信頼保証を与えることができる.この微小領域の炭酸塩安定同位体分析の特性から,どのような研究対象であっても全て新しい知見につながる.そのために,分野横断的に新たな研究対象への応用を提言し,共同研究提案には積極的に協力する.これまで研究対象とした有孔虫,浅海性石灰質生物殻(コケムシなど),各種魚類の微小耳石,円石藻などへの継続応用を検討しながら,新たな絶対環境指標の獲得をめざす.また,底生有孔虫安定同位体組成を用いた絶対環境指標の汎用性を検証するため,地域・時代とも広範囲にわたって産出し,古海洋指標としての利用価値が高く,同位体分析結果から海洋深層の環境変化に鋭敏だと推定される種を選定して,地域間の比較をおこない,底層環境指標種としての評価をおこなう.
次年度使用額が生じた(本年度総経費の7%程度).この理由としては,安定同位体比質量分析計の納品が年度末に近かったため,実際の消耗品(Heガスや液体窒素)の消費が想定以下であったこと,また,一部機材に関しては分析システムの再設計などによって消耗品使用量低減への効率化を図ることに成功したためである.次年度は,分析に必要な消耗品,学会参加費,新たな研究試料調達のための調査費・調達費,試料調整・論文校閲などへの謝金として経費を使用し,本研究テーマにおける「研究基盤の確立」と「絶対環境指標」獲得へむけた研究を推進する.
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月刊地球
巻: 412 ページ: 29-34
Marine Ecology Progress Series.
巻: 481 ページ: 199-209
10.3354/meps10202