研究課題/領域番号 |
25701003
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研究機関 | 独立行政法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
堀 知行 独立行政法人産業技術総合研究所, 環境管理技術研究部門, 主任研究員 (20509533)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 環境分析 / 深海環境 / 地球化学 / 環境 / 微生物 |
研究実績の概要 |
本研究は、未だ実体の明らかでない「地下圏炭素・エネルギーフラックスの根幹反応を担う未知微生物群」の生理生態を、分離培養技術に加え、Stable Isotope Probing(SIP)と次世代シークエンサー解析との融合法によって明らかにし、これら中核微生物群の新機能解明を通して、今なお進行しつつあると予想されるメタンハイドレート形成やナノパイライト生成などの地下物質ダイナミクスの根本的理解を目指すものである。ここで標的とする炭素化合物「メタン、酢酸」と地球第4位の構成元素「鉄」は地球の根源物質であるため、その代謝に関わる未知微生物群の実体解明は、地下圏の生命活動全体を紐解くことに直結する。なお本研究には、2012年統合国際深海掘削計画(IODP)第337次研究航海「下北八戸沖石炭層生命圏掘削」で取得した海底地下コア試料および海底堆積物試料を主に用いる。海底地下コアから得られる微生物菌体量の乏しさを打開するためにコア試料をそのまま解析するのではなく、研究の第一ステップとして中核微生物群の高度集積系(約700種)を構築した。得られた集積系のいくつかからメタン生成や鉄還元、還元的酢酸生成などの重要な生物地球化学的反応が観察されている。平成26年度は、次世代シークエンサーを用いた大規模遺伝子配列解読により各集積系の微生物構成種を数万種レベルで同定した。その結果、上記の生物地球化学的反応を担う中核微生物群のあぶり出しに成功した。さらにこれら中核微生物の分離培養および安定な複数種培養系の取得を試みている。並行して、分離培養を介さずに、高度集積系内における未培養微生物機能を超高感度に同定する方法として、SIPと次世代シークエンスの融合法「Ultra-high-sensitivity SIP(超高感度SIP)」を確立した。現在、本手法を用いた海底地下圏微生物機能の直接解明を試みている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題の実施2年目として、初年度に構築した研究遂行の基盤となる微生物集積系700種に対して次世代シークエンサー解析を適用し、その微生物構成種を数万種レベルで同定することに成功した。これにより地下物質循環を担う中核微生物群(メタン生成菌、鉄還元菌、還元的酢酸生成菌)を検出することができた。集積培養系から中核微生物の分離培養や安定な複数種培養系の取得も進んでいる。さらに中核微生物の分離培養が困難な場合のために、培養を介すことなく未知微生物機能を従来の約500倍の感度で同定できる新手法「超高感度Stable Isotope Probing」の確立に成功している。今後速やかな実験実施と成果結実が可能であるため、研究は概ね順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
初年度(平成25 年度)に構築した微生物集積系700種の中から、地下物質循環の根幹となる生物地球化学的反応の活性が観察され、さらに当該活性に関連する微生物群が高度に集積されているものを選抜し、そこから中核微生物の純粋分離または安定な複数種培養系の構築を試みる。次世代シークエンサーにより集積過程を詳細に追跡することで、上記培養実験の成果取得を最大化するよう努める。さらに培養に依存しない未知微生物機能同定法として前年度確立に成功した超高感度Stable Isotope Probingを高度集積系に適用し、海底地下圏微生物機能の直接解明を試みる。これらの研究では次世代シークエンスを多用するが、その供試試料の調整法、分析機器の運転・管理法、大規模塩基配列データ解析用パイプラインが最適化されており、早急な実験データの取得が可能である。さらに次世代シークエンスデータの取得・解析を加速化させるため、新たな系統解析用ワークステーションの導入、専門の実験補助員の雇用を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本課題実施2年目(平成26年度)は、課題遂行に必須な実験手順・解析方法(特に超高感度Stable Isotope Probing)の確立を中心的に行った。新手法開発およびそれに関わる成果発表が大きなウエイトを占めたため、実験実施・データ解析を加速化させるまでのフェーズには至らなかった。実験補助員の雇用による人件費と成果発表に関わる旅費の支出はほぼ予定通りとなったが、当該年度の実験消耗品費の支出が少なかったため、繰越分予算が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成26年度までに確立した実験系をフル稼働し成果結実を加速化するため、専門の実験補助者1名を年度通して雇用することを予定している。また膨大な次世代シークエンスデータの解析を恙無く行うため、系統解析用ワークステーションを導入する。さらに実験の遂行に必須な消耗品費、本研究で得られる成果発表に関わる経費(学会参加費、論文投稿費等)を計上する。
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