本研究は、未だ実体の明らかでない「地下圏炭素・エネルギーフラックスの根幹反応を担う未知微生物群」の生理生態を、分離培養技術と次世代シークエンサー解析との融合法によって明らかにすることで、今なお進行しつつあると予想されるメタンハイドレート形成やナノパイライト生成などの地下物質ダイナミクスの根本的理解を目指すものである。ここで標的とする嫌気分解過程の中心中間産物「酢酸」と地殻中第4位の構成元素「鉄」は地球の根源物質であるため、その代謝に関わる未知微生物群の実体解明は、地下圏の生命活動全体を紐解くことに直結する。なお本研究には、2012年統合国際深海掘削計画(IODP)第337次研究航海「下北八戸沖石炭層生命圏掘削」で取得した海底地下コア試料および海底堆積物試料を主に用いた。まず初めに、海底地下コアから得られる微生物菌体量の乏しさを打開するため、コア試料をそのまま解析するのではなく、中核微生物群の集積系を数百種構築した。得られた集積系のいくつかからメタン生成や鉄還元などの重要な生物地球化学反応が観察された。さらに次世代シークエンサーを用いた大規模遺伝子配列解読により各集積系の構成微生物を数万種レベルで同定した。その結果、上記のメタン生成や鉄還元を担う中核微生物群の系統学的特徴づけを達成した。また結晶性酸化鉄を電子受容体とする長期間継代培養によりFirmicutes門に属する新規な鉄還元微生物群を高度に集積することができた。一方、分離培養を介さずに、高度集積系内における未培養微生物の代謝機能を高感度に解析する分子生態学的方法の開発を試み、安定同位体プローブ法(SIP)と次世代シークエンスを組み合わせることで、従来法より約500倍の検出感度を有する「Ultra-high-sensitivity SIP(超高感度SIP)」の確立に成功した。
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