地球生命(圏)の限界把握においてメタンの起源推定は有効な手段の一つであり,その指標として安定同位体比が用いられている。現状の安定同位体比の指標性は,地球表層の環境条件で確立されており,高温・高圧の極限環境には適用できない。そこで,炭素・水素安定同位体比をあらゆる環境で有用なメタンの起源推定指標として確立することを目指す。多様な温度・圧力・基質濃度下でメタン菌培養を行い,生成するメタンの安定同位体比とその変動要因を解明する。 2015年度はまず2014年度までに培養した試料の残分について安定同位体比分析の分析を実施した。それと並行して同位体比分析法の自動化・簡素化を推進した。また同法の性能試験を実施するため,および培養実験でえられた同位体比の特徴を天然環境のメタンの同位体比の特徴と比較するため,調査航海に参加し海水試料を採取した。 培養実験の結果からは,1.炭素同位体比は水素分圧に依存して変化する,2.水素分圧が高く増殖速度が速い場合には水素ガスの同位体比がメタンの水素同位体比に影響を及ぼす(dD-H2効果),3.増殖速度が遅い場合は水素分圧によらずメタンの水素同位体比はおおむね一定の値を示す,4.本培養実験ではメタン菌の成長限界まで水素分圧を低下させたがそれでも地質試料のメタンの水素同位体比とは一致しなかった,5.この培養と天然の差についてメタン菌の代謝経路の可逆性によって一度生成したメタンの水素同位体比が交換されているためであると推論した。同内容について,日本地球惑星科学連合が運用するProgress in Earth and Planetary Sciences誌に投稿し,受理された。
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