研究課題/領域番号 |
25701005
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研究機関 | 国立研究開発法人国立がん研究センター |
研究代表者 |
塩谷 文章 国立研究開発法人国立がん研究センター, 研究所, 主任研究員 (10627665)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | DNA damage / ATR |
研究実績の概要 |
DNA損傷応答はDNA損傷を検出・認識し、シグナルへ変換することにより誘発される。ATMやATRはDNA損傷応答を最上流で制御するキナーゼでありATMはDNA二本鎖切断(DSB)に応答するのに対してATRはDNA複製ストレスを始めほぼすべてのDNA損傷によって生ずる一本鎖DNA(ssDNA)に応答する。ssDNA領域はDNA複製の進行に伴って二次的なDSBを生ずることや、DSBはその修復過程におけるDNAの削り込み(DSB resection)によりssDNAを生ずることから、ATMとATRは協調的に働くことによりゲノムの安定性を維持している事を示唆している。ATMとATRは生化学・機能的に良く似た性質を示すと考えられているが、ATRは細胞増殖に必須であることに対してATMは必須ではない。そこで本研究ではATRの抜本的な機能解析を遂行するためAnalog-Sensitive kinase (AS-kinase)法を用いた特異的リン酸化基質の網羅的解析を目的とする。これまでに60種類のAS-ATR候補の 作成に成功している。野生型 ATP存在下におけるRPA32 (Ser33)を基質として用いた評価において、WT-ATRと同様に活性を示すAS-ATR候補は少なく、その多くは活性を失う事が明らかとなった。このうち変異体AS-42はATP アナログのスクリーニングの結果、野生型ATP使用時に活性を示し、同時に6-(2-Mebu)-ATP アナログ存在下で活性を示すことが明らかとなった。さらにAS-42を発現させた293E細胞から調整した核抽出液中において、AS-42は6-(2-Mebu)-ATP-gamma-S存在下でDNA構造依存的に活性化し、多くの基質をリン酸化する事が示された。この他に、WT-ATR及びAS-42をDox依存的に安定的に発現する293E細胞を樹立した。以上のことからATR特異的基質の網羅的解析に必要なAS-ATR(AS-42)と6-(2-Mebu)-ATP-gamma-Sの組み合わせ及びAS-ATRの活性化システムが確立された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究代表者が昨年度研究施設を異動したため、研究環境の整備に時間を費やし、その遅れを取り戻すべく取り組んできたが、実験遂行に必須な試薬の調達(ATPアナログカスタム合成)に3カ月を要し足踏みを余儀なくされたため。
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今後の研究の推進方策 |
樹立されたAS-ATR(AS-42)発現細胞から細胞抽出液を作成し、合成DNA とヒト細胞抽出液を用いたDNA-based In vitro checkpoint assay を用いてATRを活性化させ、6-(2-Mebu)-ATP-gamma-S存在下のもと基質をチオリン酸化する。チオリン酸化の程度はチオリン酸化部位をアルキル化する事により修飾しanti-Thiophosphoester (TPE)で評価する。この評価法によりもっとも効率よくAS-ATRによるチオリン酸化が生ずる条件に最適化する。次に最適化した条件におけるAS-ATRによるチオリン酸化基質を精製し、LC-MS/MS法によりリン酸化部位を同定する。同定された基質についてパスウェイ解析を行いATRによる新規制御機構について検討する。さらに同定された新規基質をノックダウンすることやリン酸化部位に変異を導入することによりATRによる新規基質のリン酸化がゲノムの安定性維持機構に及ぼす影響について解析する。評価の対象として、ATR機能阻害と合成致死性が報告されている変異型K-Ras発現によるDNA複製ストレスを取り上げ、染色体を安定に維持し細胞の生存を維持するATR新規基質の機能について解析する。さらに様々ながん細胞におけるATR新規基質リン酸化プロファイルを調べ、DNA損傷性抗がん剤や放射線治療効果を予測するバイオマーカーの開発に役立てる。
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次年度使用額が生じた理由 |
H26年度に研究代表者の所属が変わり、研究環境の整備に時間を要したことによる遅れと、AS-ATRの作成が予想以上に困難であったため、予定を変更しH27年度に予定していた基質の同定を及び解析をH28年度に行うこととし、未使用額はその経費に充てることとした。
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次年度使用額の使用計画 |
H27年度における研究からAS-ATRが確定したため、in vitro ATR活性化システムを用いて新規基質の網羅的同定をLC-MS/MSを用いて行う。また同定された新規基質に対する特異的抗体の作成を予定しており、H27年度未使用の経費を充てる。
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