研究課題
ATMやATRはDNA損傷応答を最上流で制御するキナーゼであり、ATMはDNA二本鎖切断(DSB)に応答するのに対してATRはDNA複製ストレスを始めほぼすべてのDNA損傷によって生ずる一本鎖DNA(ssDNA)に応答する。ATMとATRは生化学・機能的に良く似た性質を示すと考えられているが、ATRは細胞増殖に必須であることに対してATMは必須ではない。本研究ではATR 特異的リン酸化基質の網羅的な解析を行うため、ATPアナログを利用できるようにATRのキナーゼドメイン中のATP-binding pocketを改変した。60種類のATR変異体の中から6-(2-Mebu)-ATP-gamma-S存在下で活性を示すAnalog sensitive ATR (AS-ATR)を同定した。次にFlag-AS-ATRを免疫沈降法により精製し、6-(2-Mebu)-ATP-gamma-S 存在下でAS-ATRを活性化させたところ、AS-ATRは多くの未知基質をチオリン酸化すること、またこれらのチオリン酸化はATR阻害剤存在下において抑制されたことから、ATR特異性の極めて高い基質が検出可能となった。次にがん遺伝子誘発性の内因性DNA複製ストレス応答を解析するため、変異型K-Rasを正常肺上皮細胞に導入する肺腺がんモデルを構築した。正常上皮細胞に比べて変異型K-Ras発現細胞はATR阻害剤に対して強い感受性が認められ、ATR依存性が高いことが示された。また変異型K-Ras発現細胞から調整した核抽出液中のリン酸化プロテオーム解析からDNA複製ストレス応答性のリン酸化基質を含む約400種類のリン酸化サイトを同定した。以上より、ATRは内因性DNA複製ストレスに応答し、外的要因DNA損傷応答時とは異なる基質群をリン酸化することにより染色体を安定に維持しがん細胞の生存を維持すると考えられた。
28年度が最終年度であるため、記入しない。
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Oncotarget.
巻: 8 ページ: 12941-12952
10.18632/oncotarget.14652