研究実績の概要 |
近年細菌は膜で構成された球状の構造体, メンブレンベシクル(MV)を細胞外に放出することが明らかとなっている。MVはその内容物を周囲の細胞に受け渡すことができるため,細胞間相互作用において重要な役割を担うことが分かってきている。ほとんどの細菌がMVを生産すると言われているが,これまでに検証されてこなかった。本研究は,水処理に関わる細菌を中心にして,MVの生産,伝達を明らかにし,さらにはその生産機構に基づいたMV設計・加工技術の基盤を構築する。昨年度までの研究により,新奇MV生産機構を明らかにし,さらにはMVの特性を決定づける可能性のある因子をいくつか同定している。28年度は主にMVの伝達について研究し,MVが細胞間情報伝達物質を含み,それがどのように伝達し,遺伝子発現を制御するのかについて明らかにした。具体的には,MVは疎水性の高い細胞間情報伝達物質を運搬しており,また,MV 1粒子には1細胞の遺伝子発現を制御する閾値濃度以上の情報伝達物質が含まれていることを明らかにした。さらには,放たれたMVは同種に付着しやすいことを明らかにした。本研究により細菌間情報伝達の新たなモデルが提唱され,実際の環境中でどのように細菌どうしが情報伝達を行うかについての理解が深まった。得られた知見を水処理施設から得られた活性汚泥にも応用し,様々な活性汚泥中のMVを解析した。その結果,どのような細菌がどのようなMVを生産するかについて示唆できる方法論が確立できた。
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