研究課題/領域番号 |
25701014
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研究種目 |
若手研究(A)
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
野見山 桂 愛媛大学, 沿岸環境科学研究センター, 講師 (30512686)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 脳移行 / 代謝 / 蓄積 / ハロゲン化フェノール類 / 動態 |
研究概要 |
H25年度は日本近海に棲息する鯨類6種(スジイルカ、カズハゴンドウ、イシイルカ、シャチミンククジラ、ナガスクジラ)の脳と血液試料に残留するPCBs、PBDEs、およびその代謝物を分析した。 分析した全鯨種の血液と脳からPCBs、PBDEsおよび代謝物が検出された。PCBs、PBDEs濃度はシャチで最も高く他の鯨種より1-2桁高値であった。全ての鯨種でPCBsおよびPBDEsの脳内濃度が血中濃度より高いこと、カズハゴンドウとスナメリPCBsの脳内濃度が有意に高いこと、カズハゴンドウのみPBDEsの脳内濃度が有意に高いことなどの特徴が認められた。OH-PCBs、OH-PBDEsもシャチが最も高濃度であった。OH-PCBs、OH-PBDEsともに血中濃度と脳内濃度の間で相関関係が認められ、これらの化合物も血液脳関門を通過し、血中濃度依存的に鯨類の脳へ移行することが推察された。 全鯨種の脳から検出されたOH-PCBs濃度は、ラットにおける小脳神経細胞の発達阻害閾値を超過しており、鯨類に及ぼすハロゲン化フェノール類の曝露リスクが懸念される。 水酸化代謝物が鯨類の中枢神経系に及ぼす影響を理解するため、スナメリに残留するOH-PCBsとOH-PBDEsを、脳を8部位(前頭葉、後頭葉、小脳、辺縁系、視床下部、脳下垂体、橋、延髄)に切り分け分析した。分析したすべての脳部位からOH-PCBsが検出され、脳内に遍在することが示された。特に脳下垂体において他の部位よりも高濃度のOH-PCBsが検出されたことから、脳下垂体に特異的に残留することが示唆された。OH-PBDEsもすべての脳部位から検出され、脳下垂体に高集積していた。OH-PBDEsはOH-PCBsよりも高蓄積していたが、海洋天然由来の化合物である6OH-BDE47が主要であった。脳下垂体は甲状腺ホルモンを含むホルモン分泌・調節の中枢であるため、OH-PCBsやOH-PBDEsの特異的な残留による内分泌撹乱作用が懸念される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
H25年度の研究計画で示した、 ①日本近海に棲息する海棲哺乳類(鯨類、鰭脚類)を対象に生体組織中に残留するPCBs、PBDEs、およびその代謝物を分析する。血液、肝臓、脳中の蓄積レベルと異性体組成を明らかにし、蓄積特性と体内動態の種差を解析する。異性体レベルで代謝物とその親化合物との関連を解析し、種特異的な代謝能について考察する。 ②脳内蓄積レベルの高い種に注目して、部位別 (前頭葉、後頭葉、中脳、小脳、脳幹、視床下部、脳下垂体など)に代謝物を分析する。脳の部位と残留しやすい異性体の関係を解析し、脳神経系へ及ぼすリスクを検証する。 については、予定していた研究をほぼ達成しており、海棲哺乳類における水酸化代謝物の脳移行と蓄積特性の解明に大きく前進した。またH26年度の計画予定である陸棲哺乳類の脳移行についても一部分析を進めており、申請時の計画以上に研究は進展した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、海棲哺乳類から陸棲哺乳類へと対象を変え、生体組織や脳中に残留するPCBs、PBDEs、および水酸化代謝物の分析を進める予定である。海棲哺乳類と同様に蓄積特性と体内動態の生物種間差を解析するとともに、PCBs代謝能が強く、水酸化代謝物の脳内蓄積レベルが高いと予想される食肉目に注目して、脳中代謝物の残留レベルを部位別に明らかにする。 以上の結果から、陸棲および海棲哺乳類における代謝能と脳移行の種差について関連性を検証し、比較生物学的視点でリスクの高い動物種(ハイリスクアニマル) を特定するための評価法を構築する。また、脳中蓄積レベルの高い種に対して脳中甲状腺ホルモン量を計測し、代謝物の残留レベルと甲状腺ホルモン量の関連性について解析し、脳神経系へ及ぼすリスクの可能性について考察する。 さらに、ニホンザルの生体組織中に残留するPCBs、PBDEs、および代謝物を分析を進める予定である。ニホンザル胎児から採取した肝臓、脳中の有機ハロゲン代謝物を分析し、臍帯血を介した母子間移行について解析する。とくに胎児期における脳移行に注目し、胎児の脳中残留レベルと移行しやすい異性体の特徴を明らかにして、胎児期の脳神経系の発達に及ぼす影響について考察する。解析結果より、生体内動態の検証が難しいヒトに対するリスク評価のための基礎情報を得る。 これらの研究結果をまとめ、国際シンポジウム等で発表するとともに、国際学術誌に英文論文として投稿する。
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次年度の研究費の使用計画 |
25年度は研究を遂行する上で、実験補助員の利用が少なかったため、人件費・謝金に計上していた経費の使用が抑えられたため。 26年度は消耗品および人件費の使用が25年度よりも多く見込まれるため、消耗品・人件費に使用予定である。
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