研究課題
PCBsに対して強い代謝能を有する食肉目に注目し、脳中OH-PCBs濃度が高いと予想されるイヌ(n=10)およびネコ(n=10)の脳試料を分析してPCBsとOH-PCBsの蓄積特性の解明を試みた。分析した全試料からPCBsとOH-PCBsが検出され、両物質ともにイヌに比べてネコが高値を示した。検出されたOH-PCBs主要異性体は甲状腺ホルモンと構造が類似しており、血中TTRと結合して脳へ移行していることが示唆された。そこで、本研究とin vitro試験によるOH-PCBsが脳神経細胞へ影響を与える濃度を比較した結果、分析したイヌでは半数、ネコではほぼすべての検体でマウス小脳神経細胞の発達を抑制した濃度を超えており、脳移行したOH-PCBsがイヌ・ネコの脳発達に影響を及ぼしている可能性が示された。ニホンザルを対象に、多様な発達段階の胎仔の脳・肝臓、母獣の胎盤・肝臓・血液に残留するPCBsおよびOH-PCBsを分析し、霊長類における胎盤を介した母仔間移行の実態解明を試みた。分析した全ての試料からPCBsおよびOH-PCBsが検出され、胎盤を介した母仔間移行が明らかとなった。そこで、胎仔の脳・肝臓に移行したPCBsおよびOH-PCBsの総負荷量を発達段階別に計算した結果、 PCBs、OH-PCBsともに胚仔期から中期胎仔期の間で負荷量の著しい上昇が認められた。本結果は初期胎仔発達段階における化学物質の特異的な移行期間の存在を示唆しており、PCBsとOH-PCBsが発達の極初期段階から、脳へ移行・残留することが明らかとなった。以上の結果から、感受性が高く発達の著しい初期発生段階の胎仔に対するOH-PCBsの潜在的なリスクが懸念される。ニホンザルで得られた本研究の結果は、ヒト胎児においても類似の移行・蓄積が起きていることを示唆しており、脳神経系へ及ぼす曝露評価が求められる。
2: おおむね順調に進展している
H26年度の研究計画で示した、1. 脳内蓄積レベルが高いと予想される食肉目に注目して、脳中代謝物の残留レベルを明らかにする研究に関しては、予定していた研究を達成し、イヌやネコにおいて脳中代謝物のリスクが高いことを示した。2. ニホンザル胎児から採取した肝臓、脳中の有機ハロゲン代謝物を分析し、臍帯血を介した母子間移行について解析する研究に関しては、多様な発達段階の胎仔の脳・肝臓、母獣の胎盤・肝臓・血液に残留するPCBsおよびOH-PCBsを分析し、PCBsとOH-PCBsが発達の極初期段階から、脳へ移行・残留することを明らかにした。3.脳中代謝物の残留レベルを部位別に明らかにする研究については現在分析中であり、H27年度に成果を発表する。また、脳内甲状腺ホルモン分析は、現在フリー体の分析法を開発しており、分析をH27年度中に実施する。
1.脳内蓄積レベルの高いイヌ・ネコに注目して、部位別 (前頭葉、後頭葉、中脳、小脳、脳幹、視床下部、脳下垂体など)に代謝物を分析する。2.ビーグル犬にPCBsを投与してin vivo動態試験を実施する。肝臓でのPCBs代謝と血中TTRを介した水酸化代謝物の脳移行を解析する。3.脳移行に伴う毒性影響をメタボローム解析およびプロテオーム解析によって検証する。2. PCBsの in vivo投与試験を実施したイヌ・ネコを対象に脳中甲状腺ホルモン量を計測し、代謝物の残留レベルと甲状腺ホルモン量の関連性について解析する。オミクス解析の結果と合わせてハロゲン化フェノール類が脳神経系へ及ぼすリスクの可能性について考察する。3. 陸棲および海棲哺乳類における代謝能と脳移行の種差について関連性を検証し、比較生物学的視点でリスクの高い動物種(ハイリスクアニマル) を特定するための評価法を構築する。
H26年度は化学分析に関わる物品費を当初予定していた額よりも抑えることができ、助成金の一部を次年度の研究費使用分として繰り越した。今年度は、毒性影響解明のためのオミックス試験を計画しており、必要な試薬類や器具類、機器分析消耗品の増加が想定されるため、そちらに充てる計画である。
オミックス試験に必要な試薬類、ガラス器具、有機溶媒、LC-MS/MSの安定稼働に不可欠な消耗品代や定期的な調整費、化学分析やデータ解析を補助するソフトウェアの拡充に本研究費を活用する。また、研究成果を国内外の学会、シンポジウムで発表するための旅費や国際学術誌に論文として投稿する際の印刷費、校閲費にも使用する計画である。
ニホンザル胎児からPCBsと題して、本科研費による研究成果が、2014,5/14 毎日新聞全国版2面掲載された。
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