研究実績の概要 |
本年度は、PCBsを投与したイヌの脳組織を対象にプロテオームおよびメタボローム解析を実施し、PCBs曝露による脳細胞への包括的な毒性発現機序と甲状腺ホルモンの撹乱機構の解明を目指した。 韓国安全性評価研究所(KIT)の動物実験規程に従い、実験ビーグル犬の成獣オスに対し、PCBs 12異性体(CB18, 28, 70, 77, 99, 101, 118, 138, 153, 180, 187, 202; 1異性体あたり0.5 mg/kg)の混合物を腹腔内投与した。曝露開始120時間後に放血安楽死させ、脳および血清を採取して分析に供試した。 分析の結果、20種のOH-PCBsを脳試料から検出し、とくに4OH-CB107および4OH-CB202の高い脳移行性が明らかとなった。 イヌの大脳新皮質から198種類のイオン性代謝物を検出した。その中で尿素回路に関連するメタボロームに対して、OH-PCBsによる強い抑制作用が認められた。脳細胞内での尿素回路の低下は、アンモニアの解毒作用に対して悪影響を及ぼすことが推察される。さらに尿素回路内でもミトコンドリアに関連するメタボロームに対して強い抑制作用がみられており、OH-PCBsが脳細胞のミトコンドリアに対して悪影響を及ぼしている可能性が示唆された。 プロテオーム解析により酸化的リン酸化に関与するNDUFA8、ミトコンドリア内に発現するタンパク質(SLC25A12, HADHA)や脂質代謝に関与する酵素(ACSBG1)の抑制が認められた。これらの結果から、ミトコンドリア電子伝達系酵素複合体(Complex)の機能低下によってミトコンドリア内膜内外のプロトン勾配が減少し、ATPの生産性が低下したと推察された。今後、OH-PCBsによる尿素回路の抑制やエネルギー生産への異常が甲状腺ホルモンレベルにもたらす影響について更なる解析が必要である。
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