研究課題/領域番号 |
25702016
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研究機関 | 公益財団法人立山カルデラ砂防博物館 |
研究代表者 |
福井 幸太郎 公益財団法人立山カルデラ砂防博物館, その他部局等, その他 (10450165)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 氷河 / 立山 / 剱岳 / 流動 / アイスコア / アイスレーダー / ブータン |
研究実績の概要 |
2012年4月、立山の御前沢(ごぜんざわ)雪渓、剱岳の三ノ窓雪渓、小窓雪渓が国内初の現存する氷河であるとした論文が日本雪氷学会誌に原著論文として発表され、立山連峰に氷河が現存することが学術的に認められた。氷河が存在しないと考えられていた立山連峰で氷河が確認されたことは、日本唯一の貴重な存在であるのみならず、どのように氷河が形成維持されているのか?その特性が世界的に注目されている。平成26年度に行った観測結果の概要を以下に示す。 ・2014年9月上旬に御前沢氷河の上流部で深さ15mに達するアイスコア掘削を実施した。採取したコアは融解させずに博物館の低温室へ持ち帰った。コアの層相は2013年に採取した三ノ窓氷河や御前沢氷河下流部のアイスコアと同様、最上部だけが積雪層(フィルン層)、それ以下が気泡氷、クリアーバンド、汚れ層の互層であった。 ・2014年9月下旬~10月下旬にかけて名古屋大学と共同でブータンヒマラヤのガンジュラ氷河でアイスレーダーを使った氷厚観測を行った。ガンジュラ氷河は全長1.1kmの小規模なサドル氷河(鞍部にできる氷河)で小規模な点や氷河の全域が消耗域になっているといった点で剱岳の三ノ窓氷河や小窓氷河に通じるものがある。氷厚観測の結果、氷河中流部の氷の厚さは50m、上流部の厚さは75mであった。この氷厚は三ノ窓氷河とほぼ同じで有り、ヒマラヤの小型氷河の中には立山連峰の氷河と同じ規模のものがあることが実証された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
・御前沢氷河上流部(氷厚30m)で深さ15mに達するアイスコア掘削に成功した。この氷河の内部には礫が多く混入しているので掘削は困難であると考えられていたが、場所を選べば、氷河底に達する掘削が可能である目処がついた。氷河底まで掘削できれば、氷河の形成年代の解明やアイスコアを使った古環境復元が可能になる。 ・ブータンヒマラヤのガンジュラ氷河で氷厚観測に成功し、立山連峰の氷河と同程度の氷厚であることを確認した。立山連峰の氷河は規模の点でもヒマラヤの小型氷河と同程度であることが実証できた。ガンジュラ氷河の観測結果は名古屋大学と共同で論文発表する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
・国内4番目、5番目の氷河の可能性が高い池ノ谷右俣雪渓と内蔵助雪渓を氷河と確定させるにはさらに長期間の流動観測データが必要であると学会や研究会で指摘された。このため、2015年度も流動観測を継続して行い、データを補強して論文として発表する。 ・このほか、鹿島槍ヶ岳のカクネ里雪渓も2011年に行ったアイスレーダー観測で厚さ40mの氷体をもっていることが判明しており、氷河の可能性が高いことが分かっている。2015年度は大町山岳博物館や信州大と共同でカクネ里雪渓の総合観測を実施し、カクネ里雪渓も氷河であると確定させる。 ・御前沢氷河で氷河底(深度30m付近)までアイスコア掘削を行う。採取したアイスコア中の有機物の放射性炭素年代から氷河の形成年代を明らかにする。 ・三ノ窓氷河ではもっとも氷厚が厚い上流部での流動速度が不明であった。上流部でも流動観測を行い、氷河全域の流動速度を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
2014年度は、鹿島槍ヶ岳カクネ里雪渓の現地調査を数回予定していたが、途中の雪渓の状態が非常に悪くアプローチが困難な状況であったため現地調査を行うことができなかった。これにかかる研究代表者や同行研究者の旅費や山岳ガイド雇用のための人件費・謝金の支出が無くなったため次年度使用額が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
2015年度は、氷河・雪渓までのアプローチが困難な場合はヘリコプターによる人員と観測機材の輸送を行う予定である。このためカクネ里雪渓、三ノ窓氷河、御前沢氷河の現地調査回数が前年よりも増える。これにかかる研究代表者と同行研究者の旅費、山岳ガイド雇用のための人件費・謝金に次年度使用額を使う予定である。
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備考 |
立山カルデラ砂防博物館のホームページにトピックとして立山連峰の氷河情報を掲載。日本雪氷学会誌の論文(福井・飯田,2012)や氷河の空撮画像のダウンロードが可能。このほか「立山剱岳の氷河万年雪の用語集」も掲載し、一般の方にも氷河とは何か分かりやすく紹介してある。
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