本研究ではシミュレーション技術を用い,大都市における避難行動を量的に検証するものである.特に,大都市災害の特徴である複合的な災害事象を取り扱う点が研究の独創的な点であり,ここでは首都圏を対象として,広域的な帰宅困難現象と市街地火災からの地区単位の避難行動を取り上げた.このため本研究では,首都圏スケールの広域シミュレーションと地域単位の狭域シミュレーションを別個に構築し,両者を入れ子構造的に関連付けることで複合災害からの避難行動の評価を可能としている.結果として,首都圏の帰宅困難者の移動が市街地火災からの避難に与える影響は一斉帰宅が行われかつ細街路が閉塞するという条件の元ではきわめて大きく,道路閉塞(1リンクあたり5%)したうえで,帰宅困難者の一斉帰宅のもとで震災から2時間後に墨田区の住民全員が市街地火災からの避難を開始するケースでは,30分以内に避難を完了できる人は46.9%,1時間以内は65.9%,2時間以内でも80.3%しか避難場所に到達できないことがわかった(帰宅困難者も混雑も道路閉塞もしない条件下では99%以上が30分以内に避難を完了することができた).本研究は市街地火災からの避難を念頭に置いたが,津波避難においてもこの傾向は同様であると考えられ,大都市内で迅速な避難を実現するためには,帰宅困難者による混雑発生も踏まえた避難開始時間の設定や,避難計画からみた一斉帰宅抑制の効果検証など,大都市特有の避難計画の策定技術が必要と考えられる.
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