研究課題
若手研究(A)
本年度はストロンチウム同位体比を用いた水移動経路の推定、フロン類を用いた滞留時間の推定、および溶存有機物の蛍光特性を用いた水循環過程の解明を中心に研究を進めた。ストロンチウム同位体比を用いた水移動経路の推定では、3流域において河道流下過程におけるストロンチウム同位体比の変化から、水移動経路を比較した。流域末端で水収支が閉じる流域では、流域下流部の河道沿いに同位体比が上昇し、流域下端で安定した。上流部の風化土層内の地下水は、深部ほど高い同位体比を示すことから、上流部で土層深部に浸透した水が下流部で湧出していると考えられる。他の2流域の渓流水は、支流の合流点を境に同位体比が大きく変化することから、支流ごとに地下水の起源が異なると考えられる。特に、流域下端で観測された同位体比は、流域内で観測される同位体比からは説明できず、また隣接流域の渓流水の同位体比に近かったため、流域界を越えて地下水が流入する水移動経路の存在が確認された。フロン類を用いた滞留時間の推定では、涵養温度の設定が推定結果に大きく影響することを確認した。また、この手法による推定は、通常一度のみの採水から行われることが多いが、本研究では採水日ごとの変動が存在し、複数回の採水から、慎重に滞留時間を決定する必要性が明らかになった。溶存有機物の蛍光特性を調べ、これまで有機物の総量としての濃度で議論されていた物質・水動態を、有機物の質に着目した考察を行った。蛍光特性を持つ各物質の強度の変動から、地下水帯表層と下層とで涵養過程が異なり、これらの混合が渓流水のDOC濃度形成に影響を与えることが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
研究実績の概要に示したとおり、観測・データ取得・解析は順調に進展している。26年度も同様に観測を継続していく予定である。ただし、ストロンチウム同位体比、フロン類に関しては、化学分析を他機関に依存して行う必要があるため、年度当初に計画していた試料数を十分に測定することができなかった。この点について、26年度は改善が図られる見込みである。また、水質センサーを用いた自動水質観測はセンサーの開発遅れや価格の問題があり、進んでいない。これは26年度に開始予定である。
上述の観測研究を今後も継続・発展させていく。ここの研究成果を学会等で発表していくと同時に、それらを合わせた総合的な考察も同時に進めていく必要がある。また、上述の観測は主に平水時、月に一度程度の観測からの考察であるが、これと同時に、降雨時の短時間間隔の観測を行い、短い時間スケールにおける流域水移動過程の動態と、それに伴う物質循環過程の動態を明らかにする。この観測は主に溶存有機物の蛍光特性の変化を見ることで達成する予定である。また、自動センサーによる観測データは、この解析に有効に利用される。
次年度使用額はすべて基金分である。補助金を利用できない期間(年度末から年度初め)に遅滞なく研究を進めるために、意図的に残している。サンプル採取および分析など、本研究の根幹をなす作業は、年度の変更などと関わりなく、遅滞なく行う必要がある。このようなときに、分析消耗品などの購入を行う。
すべて 2013 その他
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (17件)
Environmental Monitoring and Assessment
巻: 185 ページ: 855-863
10.1007/s10661-012-2596-y