研究課題
1.ストロンチウム安定同位体比を用いた山地源流域の集水構造の解明、2.フロン類を用いた地下水の滞留時間の推定、および3.溶存有機物の光学特性を用いた質の評価と、その降雨時の変動について研究を進めた。1.では花崗岩2流域における観測から、花崗岩流域の特性として、上流部で基岩内部に浸透した地下水が、比較的面積が小さい範囲(>10ha程度)で回収され、面積が拡大しても、小流域の合流のみで流量が説明できることが明らかになった。基岩地下水が表出する経路として、基岩の割れ目を通じて多量に湧出する基岩湧水に加え、露出した基岩面からじわじわとしみ出す基岩浸出水が量的に重要であることが示された。基岩浸出水の発生地点を確認することは容易ではないため、これまで評価されてこなかったが、本研究によりその認識を改める必要性が指摘できる。2.では地形特性や地質が異なる複数の流域における観測から、地下水・湧水の滞留時間には、従来の研究で指摘されている地表面形状と滞留時間の関係性は明確ではなく、地下水流動の影響が強く表れていることが明らかになった。すなわち、個別の流域では基岩地下水の寄与の大きさ、基岩内部の地下水貯留量の大小が、滞留時間をコントロールしていた。ここから、渓流水の滞留時間決定機構の解明のためには、基岩への浸透・貯留・基岩からの流出のプロセスの強さに着目した観測を行うことが重要である。3.では、溶存有機物の光学分析によって得られる質に関する様々な指標を用い、降雨時の渓流水でそれらがどのように変化するかを考察した。0次谷、1次谷、2次谷と空間スケールの異なる流域で比較すると、流況の不安定は0次谷流域では、各指標の変動が比較的大きかった。1,2次谷では0次谷比べて安定していたが、2次谷では降雨後に1次谷と比べて変動が見られた。これらの変動はハイドログラフ構成成分の時系列変動から説明された。
1: 当初の計画以上に進展している
上記1,2の研究はそれぞれ、個別の学術論文として公表可能なレベルにあり、当該分野における重要な研究成果と位置づけることができる。また、3の研究については、2015年3月の日本森林学会において、学生ポスター賞を獲得するなど、当該分野における期待の高さが認められる。これらすべてはこの1年間に大きく進展した研究成果であり、当初計画以上の進展が見られた。
上記1,2の研究をそれぞれ学術論文として公表を進める。また、1の研究についてはより事例を増やすため、これまで観測を行っていなかった流域を対象にサンプルを採取し、同様の考察を進める予定にしている。特に、地質の異なる流域を対象とすることで、これまで中心に行ってきた花崗岩流域との類似性あるいは相違点を明らかにする。3の研究については、事例を増やすと共により精度・時間分解能を高めるため、溶存有機物の蛍光特性自動観測センサーを導入する。このセンサーの導入は計画より遅れていたが、2014年度末に納品され、観測を開始したところである。
次年度使用額はすべて基金分である。補助金を利用できない期間(年度末から年度初め)に遅滞なく研究を進めるために、意図的に残している。
サンプル採取および化学分析など、研究の根幹をなす作業は、年度の変更などと関わりなく、遅滞なく行う必要がある。このようなときに、分析消耗品などの購入を行う。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (20件)
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