生体用金属材料分野において近年盛んに研究開発されてきた低弾性率チタン合金のさらなる発展型として、弾性率自己調整金属を開発し、その脊椎固定器具への応用について検討している。患者が望む骨との高い力学的整合性を得るための低弾性率と医師が求める手術施行時の高い操作性を実現するための高弾性率とを両立させるため、変形誘起相変態を利用して、母相よりも高い弾性率を有する新たな相を形成させることにより、変形部のみ弾性率が上昇し、非変形部は低弾性率を示すことがこの合金の特徴である。昨年度から、同合金の実用化を目指して、代表的な弾性率自己調整金属であるTi-12Cr合金製の脊椎固定器具を試作し、その耐久性評価を開始した。Ti-12Cr合金製脊椎固定器具の耐久性は、変形誘起相変態が生じない他のβ型チタン合金製脊椎固定器具に比べれば良好であったが、従来から実機に利用されているα+β型チタン合金製脊椎固定器具に比べて劣る結果が得られた。この耐久性試験では、いずれの合金製脊椎固定器具においても、ほとんどの場合、スクリューとロッドの締結部で破壊が生じた。すなわち、脊椎固定器具では、部品間の接触による耐久性の劣化が示唆された。そこで、Ti-12Cr合金製脊椎固定器具に表面硬化処理を施し、その耐久性の改善効果について検討した。その結果、表面硬化処理を施したTi-12Cr合金製脊椎固定器具では、同処理を施していないものに比べて、著しい耐久性の改善が認められた。微細組織観察の結果、表面硬化処理を施したTi-12Cr合金製脊椎固定器具には、表面近傍において変形誘起ω相の形成が認められた。したがって、この表面近傍における変形誘起ω相の形成が、Ti-12Cr合金製脊椎固定器具の耐久性を向上させた一つの要因となったと考えられる。
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