本研究では、小学校体育授業の全国的な普及に向けてカンボジア王国が示す政策の実行可能性を科学的に検証し、当該国で持続可能な体育普及制度を探求するための実証研究を行った。 研究開始時には、利害関係者からの聞き取り調査を行い、課題群の構造化分析を実施した。その際、実務者にとって曖昧模糊な旧制度に依存した運営が行われており、普及施策の足枷となっていることが判明した。そこで研究目的を転換し、歴史的な経緯を紐解き、その発展形成と制度および体制を明確にし、その知見を現場に還元することとした。具体的な研究実績は以下の通りである。 1年目に行った「小学校体育科教育普及メカニズムの独自性の検証 (教育開発導入期)」では、旧宗主国(仏国)の介入によって、近代体育(体操教育)を含む近代教育および教育の普及施策が形成され、現行の学校体育制度に引き継がれていることが判明した。 2年目の「カンボジア王国の体育科に関する人材育成制度と他教科との差異検証 (教育開発展開期・衰退期)」では、カンボジアのスポーツ黄金期と称される時代に構築された行財政制度が、現在の制度を下支えしているものの、その後、時代に合わせて変化していたことが判明した。 3年目には、大きな体制変動があった教育崩壊・復興期の教育開発を調査し、内戦後に形成された教育普及施策と新体育普及施策の相違を図ることで総合評価によるカンボジア王国の新体育普及施策の有効性と持続性の分析を行った結果、教科体育は、他教科と異なり、前時代の仕組みが継続されていたことが分かった。 そして、本年度は「普及施策に関して外部者や介入者の関与による影響」と「普及施策に関わった内部者が担った役割」について経営資源を踏まえて、現行の制度の発展形成を簡潔なレポートにまとめると共に、カンボジア王国の体育科教育関係者に対して研究成果の一部を提示した。
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