アスリートらが競技前に行う準備運動(ウォームアップ)は、科学的根拠が欠如しているため、経験に基づき決められていることが多い。ウォームアップにて行われる運動の代表例としてストレッチングがあるが、ストレッチングによって筋や腱が軟らかくなるのかどうか、また、それに伴いスポーツパフォーマンスが向上するのかどうかは不明な点が多い。そこで、28年度は、スポーツやリハビリテーションの現場にて頻繁に行われる、下腿三頭筋やハムストリングに対する静的ストレッチを対象に、その効果検証を行った。下腿三頭筋を対象としたストレッチングを行った場合、腓腹筋内側頭は軟らかくなったが、腓腹筋外側頭およびヒラメ筋に対する効果は認められなかった。また、アキレス腱については、弛み(slack)が増したが、弛みを考慮した際のスティフネス(伸びにくさ)に変化は見られなかった。さらに、腓腹筋内側頭の筋束スティフネスは筋伸長位(足関節背屈位)においてのみ有意に低下することが明らかとなった。股関節と膝関節を跨ぐ二関節筋であるハムストリングを対象とした場合、受動的な膝関節伸展によるストレッチングを行うとハムストリング全ての筋(大腿二頭筋長頭、半腱様筋、半膜様筋)が軟らかくなるが、受動的な股関節屈曲によるストレッチングを行った場合は、半腱様筋と半膜様筋は軟らかくなるものの、大腿二頭筋長頭のスティフネスは変化しない。これらの結果は、ストレッチングのターゲットとしている全ての筋が軟らかくなるわけではなく、ストレッチング効果が認められる筋は限定されることを示唆している。また、本研究の結果より、肉離れなどの予防を目的としたストレッチングを行う場合、肉離れ好発部位である大腿二頭筋長頭を軟らかくするためには、一般的に行われている股関節屈曲によるストレッチングではなく、膝関節伸展によるストレッチングを行わなければならないことが示唆された。
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