研究概要 |
運動中には,運動の強度に対応して心拍数や血圧,活動筋血流量が調節される.これらの調節は,生体機能を維持しながら運動を継続するために欠かせない.活動筋血流量を実験的に低下させると心拍数や血圧が上昇する.この反応は,主に,活動筋への酸素供給量が低下し,筋内に代謝産物が蓄積することで筋代謝受容器反射が賦活されたことによると考えられる.しかし,活動筋血流量が阻害されていない運動中の循環反応に対する筋代謝受容器反射の関与については,不明な点が多く残されている.本年度では,活動筋血流量を選択的かつ非侵襲的に増加する実験モデルを開発・確立し,活動筋血流量の増加が循環反応に及ぼす影響を調べることから,運動時の循環反応に対する筋代謝受容器反射の関与について検討することを目的とした. 被験者(13名)は活動肢側の下腿を圧負荷装置内に挿入した状態で,最大負荷の20,40,60%での12分間の動的足底屈運動を行った.運動は,圧負荷装置に陰圧を負荷する条件と陰圧負荷を行わない条件(コントロール)で実施した.陰圧負荷条件では,運動開始の3分後から段階的に-20, -45, -70 mmHg(NP20, 45, 70)を3分ずつ負荷した. 20%強度では,いずれの陰圧負荷も循環反応に影響を及ぼさなかった.40および60%強度ではNP45と70によりコントロールと比較して活動肢血流量が増加した.40%強度では,その他の循環反応に有意な変化はみられなかったが, 60%強度では心拍数,心拍出量,動脈血圧が低下した.これらの結果から,1)40%以下の運動強度では,通常の活動筋血流量の水準において筋代謝受容器反射は活性化されていないこと,また,2)60%以上の強度では,通常の活動筋血流量において筋代謝受容器反射が恒常的に活性化されていて昇圧反応に大きく関与していることが示唆された.
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