研究課題
若手研究(A)
Hesr1/Hesr3に関してはH25年度の成果として二つの大きな進展があった。一つはHesr1/Hesr3の下流に抗酸化遺伝子のマスターレギュレーターであるNrf2が存在する事を見いだした点が上げられる。Hesr1/3の欠損によりNrf2の発現の低下、Hesr1の強制発現により、Nrf2の発現増加、Notchリガンド刺激によるNrf2の発現増加および、Hesr1/3欠損細胞を用いた場合にはNrf2の発現増加が観察されなかった。また、Nrf2を筋系譜細胞に発現させる事で、MyoDやmyogeninの発現低下、増殖マーカーの発現低下が観察された。そこで、Nrf2の生理的な役割を解明するために、Nrf2欠損マウスを当該施設に搬入した。二つ目は成体骨格筋幹細胞におけるHesr1/Hesr3の機能解析に必須なHesr1 floxマウスをドイツのGessler博士から供与頂き、マウスの交配を始めたことである。カルシトニン受容体に関してはH25年度に非常にインパクトのある二つの結果を得る事ができた。一つは骨格筋幹細胞におけてカルシトニン受容体はcAMP/PKA経路を介して静止期維持にはたらいている事を明らかにした。実際にカルシトニン受容体コンディショナル欠損マウスでは、骨格筋幹細胞において、静止期の異常がみられた。二つ目はLineage-traceマウス (Rosa-YFP) を用いることで、カルシトニン受容体コンディショナル欠損マウスでみられる骨格筋館細胞の減少は、Hesr1/3欠損マウスでみられるような、幹細胞の早期分化ではなく、細胞死によるものと考えられた。さらにRosa-YFPのカルシトニン受容体コンディショナル欠損マウスの解析から、カルシトニン受容体からのシグナルは骨格筋幹細胞のlocation or cell motilityを制御することを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
申請書において平成25年度ないにおいては、3つの実験を計画していた。一つ目が【研究計画1 Hesr3コンディショナル欠損マウスの作製】である。これに関しては、当初自身で作成を予定していたが、参加した研究会の情報からドイツのGessler博士がHesr1コンディショナル欠損マウスを所有されていることを知り、Gessler博士にコンタクトしたところ、快諾頂けた。ドイツからクリーンナップ等をへて当該施設に搬入することができ、順調にPax7-CreERT2、Hesr3欠損マウスとの交配を始めている。二つ目が【研究計画2 筋衛星細胞におけるカルシトニン受容体の役割】である。こちらも予定していた通り、レポーターマウス(Rosa-EYFP: Enhanced Yellow Fluorescent Protein)とPax7CreERT2::Calcr(f/f)を交配し,解析を行うことができた。その結果、カルシトニン受容体コンディショナル欠損マウスでみられる骨格筋館細胞の減少は、Hesr1/3欠損マウスでみられるような、幹細胞の早期分化ではなく、細胞死によるものと考えられた。さらに、EYFPでラベルされた細胞の中には、通常では考えられない基底膜の外の細胞を観察した。この結果は、カルシトニン受容体欠損により、骨格筋館細胞が自身のNicheから逸脱したことを示した。研究計画3【 Hesr1/3の標的遺伝子の同定二つ目が】である。こちらも、網羅的な遺伝子発現解析から、Hesr1/3を同時に欠損した場合においてのみ、抗酸化遺伝子群の発現が低下している事を見いだし、さらに、それらの遺伝子群のマスターレギュレーターであるNrf2の発現の減少している事を見いだした。さらに、種々の検討によりNotch/Hesr1/Hesr3/Nrf2の経路が存在する事を見いだした。以上の通り、全ての実験計画において、予定通りの研究成果を上げる事ができた。
Hesr1/Hesr3に関しては、第一にNrf2欠損マウスの骨格筋幹細胞の解析を行う。解析の主眼としては、Nrf2欠損により、骨格筋幹細胞の静止期・未分化性に異常が見られるか否かについて検討を行う。しかしながら、Nrf2欠損マウスで期待通りの結果が得られない可能性も考えられるため、より本質的なHesr1/3の標的を探す必要もリスク回避としては必要であると考えられる。そこで、Chip-seq法等により、Hesr1/3の直接の標的遺伝子同定も同時に行う。また、Pax7-CreERT2::Hesr1(flox/flox)::Hesr3(-/-)の作成の為の交配を行い、成体骨格筋幹細胞におけるHesr1/3の機能を明らかにする。カルシトニン受容体に関しては、おおむね予定していた検討を終える事ができたが、骨格筋幹細胞のlocation or cell motilityを制御する下流シグナルの検討がまだ不十分である。そこで、まずはcAMP/PKAやcAMP/Epacシグナル等に焦点をあて検討をすすめる。さらには誘導型カルシトニン受容体発現マウスを作成したので、筋再生過程において異所的にカルシトニン受容体を発現させた場合に、筋再生がどのように変化するのかについての検討も開始する。さらには骨格筋幹細胞におけるカルシトニン受容体の発現制御メカニズムについての検討にもチャレンジし、Hesr1/3やカルシトニン受容体シグナルとヒト加齢性筋萎縮との関連を検討する。
Hesr1コンディショナル欠損マウスを作成する必要がなくなったため。Chip-seqやNrf2欠損骨格筋幹細胞の網羅的遺伝子発現解析、さらには研究の進展を加速させる為の人件費にあてる予定である。
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