研究実績の概要 |
有毒哺乳動物である食虫動物トガリネズミおよび絶滅危惧種ソレノドン由来の特異な神経毒の構造や機能の解明を目指して、本年度は以下の研究を実施した。 1.ブラリナトガリネズミの顎下腺由来の麻痺性神経毒:ミールワーム麻痺活性および培養細胞におけるCaチャネル開口作用を示す、顎下腺由来の麻痺性神経毒の検討を行った。昨年度までに顎下腺から単離した分子量約5 kDaの麻痺性ペプチド2種 [Blarina paralytic peptides 1 and 3 (BPP1, BPP2)] について、trypsinおよびGlu-Cを用いて溶液内酵素消化を行い、詳細なMALDI-TOF/TOF MS解析により、48, 54アミノ酸残基からなるBPP1, BPP2 の全アミノ酸配列を決定した。また還元アミノアルキル化処理により、両ペプチドには3組のジスルフィド構造が含まれることがわかった。BPP1, BPP2は、哺乳類に普遍的に存在し脳内で分泌されるオピオイドペプチドの前駆体ペプチド(プレプロ配列)にあたるシンエンケファリンと高い相同性を示すが、これまでに、ヒト由来のシンエンケファリンが唾液成分として検出されたり、麻痺活性成分として同定された報告はない。今後、両ペプチドの二次構造の解析と化学合成による麻痺活性の確認を行う。 2.キューバソレノドンの生態調査と唾液プロテアーゼの解析:昨年度に引き続き、有毒な哺乳類ソレノドンの生態調査と唾液成分の試料採取を目的として、キューバ共和国グアンタナモ州およびオルギン州にてフィールド調査を行い、1頭の生け捕りに成功した(2016年3~4月)。また糞分析などから、ソレノドンを捕食する可能性のある野生動物の生態域が拡大していることがわかった。これまでの調査研究で得た約10個体のソレノドンの唾液について、成分の比較とプロテアーゼの同定を進めている。
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