研究実績の概要 |
セントラルドグマに登場しない役者は古典遺伝学だけで解析するには限界があり、それぞれの分子種に適した解析手法を用意する必要がある。本研究では、こういった分子種のひとつである脂質分子に化学遺伝学を適用し、生体膜微小環境の構造と機能についての理解の深化を目指す。申請者らは海産抗真菌物質theonellamide (TNM) が細胞膜ステロールを認識し、分裂酵母では細胞壁合成の亢進というユニークな表現型を発揮することを報告したが、その詳細なメカニズムは未解明である。そこでTNMの作用機序を分子レベルで解析するとともに、新たに取得する脂質結合物質と、新しい生体膜解析技術を導入することで多面的に生体膜における脂質分子の機能解析研究を推進している。昨年度は主に、スクリーニングにより取得した新しい20員環ポリエンマクロラクタム8-deoxyheronamide Cを含むheronamide類が、リン脂質の飽和炭化水素鎖を認識することで分裂酵母の生育を抑制することを見出した。本年度は同化合物群の分子レベルでの作用解析を目標に、構造活性相関研究やゲノムワイドなスクリーニングを行ってきた。また、スクリーニングの継続により、5-alkyl-1,2,3,4-tetrahydroquinolineを生体膜を標的にする新しい抗真菌物質として見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は生体膜脂質を特異的に認識することでユニークな表現型を有する天然化合物を見つけ、それを用いて膜脂質の機能解析に挑もうとするものである。初年度の昨年度にすでに8-deoxyheronamide Cという新しい化合物を取得し、本年度には新たに5-alkyl-1,2,3,4-tetrahydroquinolineを取得し、生体膜脂質を調べるためのツール化合物の取得は極めて順調である。また、前者はリン脂質の飽和炭化水素鎖を認識することから、ステロールを認識するTNMと合わせて、いわゆる脂質ラフトの機能解析が可能になった点も、大きな成果であり、来年度以降のより詳細な機能解析に期待がかかる。一方で、5-alkyl-1,2,3,4-tetrahydroquinolineは極めて単純な分子であり、構造活性相関と生化学的な検証によるその標的分子の同定による作用機序解析の新たな展開が望まれる。
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