研究課題
大脳基底核を構成する主要な脳領域である線条体は、運動機能、学習機能など様々な行動を媒介することが知られており、また多くの脳領域、神経核との出入力関係を担う重要な中継核である。我々はこれまでに、特定の神経回路を遺伝子標識し、その回路の機能を選択的に制御する技術開発を行い、これを応用して視床束傍核 (parafascicular nucleus; PF)ニューロンから線条体へ投射する視床線条体路が、視覚性弁別学習行動の獲得及び実行機能をコントロールすることを明らかにした。視床線条体神経路は、上述のPF核及び視床外側中心核 (central lateral nucleus; CL)を起始核とした、視床を構成する髄板内核からの投射がメインである。26年度においてはCL-線条体路機能が、PF-線条体路機能とは異なる機能を有し、視覚性弁別学習では、学習獲得フェーズには影響が見られないが実行機能には一時的な影響が現れることを見出した。27年度においては、CL-線条体路が担う行動機能解析を行った。PF核は外背側線条体に主に投射するのに対し、CL核は内背側線条体及び内外背側線条体の境界領域に投射している。内背側線条体は、前頭前皮質領域と神経機能を連関し行動の柔軟性を司ることが知られていることから、CL-線条体経路の機能操作が行動の柔軟性にも影響を及ぼす可能性を調べた。その結果、過去の強化子を新たな情報に置き換える能力を測る、逆転学習課題及び状況の変化に応じて柔軟に行動を変化させる能力を測る、set-shifting課題を行ったところ、CL-線条体経路除去群のマウスが著しくその行動変化の柔軟性が乏しいことを見出した。今後はこれらの解析結果をより詳細に調べるため、光遺伝学やCre組換え酵素を用いて神経路機能を促進的に誘導制御し、行動選択時に賢い行動を示すモデル動物の作出を目指す。
1: 当初の計画以上に進展している
標的とする神経路をCL-線条体路として、本経路を選択的に除去したモデル動物を効率よく得ることができた。また、本神経路が行動の柔軟性に関わることを検証するための行動解析システムが本研究室には整っており、研究協力者からの技術供与を受けることでこれらの解析を円滑に行うことができたため、計画以上に多くの実験データを取得することができた。これをもとに、28年度の実験計画も予定どおり開始することが可能となった。
27年度に得られた研究成果を元に、本研究課題の最終年度である本年は、CL-線条体路の行動機能解析をさらに進めるだけでなく、電気生理実験により本神経路がin vivoにおいてもその機能的な促進・抑制が見られるかを検証することを計画している。特にこれまでは、選択的神経路機能制御操作により、学習行動に重要な役割を示す経路の特定と機能抑制によって誘導される学習行動解析が中心であったが、28年度においては、CL-線条体路の機能促進モデル動物を作出してその行動解析を行う。また、行動解析と同時に神経活動を記録することでより詳細な経路操作による行動及び神経機能の連関を明らかにすることを予定している。
その他の項目に計上していた行動解析に用いる機器が、本研究室既存のもので代用可能であり新規購入する必要がなくなったため。旅費については、本年度は予定していた国内外の出張を行わなかったため。人件費については、別予算からの支出を行ったため不必要となったから。
前年予定していた国内外出張を28年度に計画している。物品費には、予定していた以上の費用がかかったため、28年度においては27年度余剰分を充てることを予定している。
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すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 2件、 招待講演 2件)
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