研究課題/領域番号 |
25702054
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研究種目 |
若手研究(A)
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
松井 広 東北大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (20435530)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 脳科学 / グリア細胞 / 光遺伝学 / グルタミン酸 / 細胞内イオン |
研究概要 |
本研究では、脳の中に相並ぶ神経回路およびグリア回路の間で、どのようにして情報が交換されているのかを明らかにし、グリア回路の活動が認知・学習・行動といった心の機能にいかに影響を与えているのか解明することを目的とする。この課題にせまるための強力なツールとして、ChR2やArchT等の光感受性分子を活用し、従来は不可能だった、神経やグリアの活動に対する選択的な光操作を行った。また、グリアの担う信号を計測するために、電気的に記録する方法に加え、二光子イメージング法やFRET法等の最新の光計測法を導入した。 本研究では、1) 急性脳スライス標本を用いた電気生理学実験、2) 生きたままの動物からの光計測実験、および、3) 動物が行動学習している最中での光刺激実験、の3つの実験を行うことを目指している。平成25年度においては、主に、急性脳スライス標本を用いて実験をしたところ、神経細胞間での興奮性信号伝達に使われるのと全く同じグルタミン酸が、伝達物質としてグリアから放出されることが示された。また、グリア光刺激によってグルタミン酸が放出されると、神経細胞間のシナプス伝達が修飾されることも示された。しかし、グリアからの放出のメカニズムは、神経からの放出とは全く異なり、シナプス小胞からのCa2+依存性開口放出ではなく、DIDS感受性陰イオンチャンネルからのpH依存性放出であることが示唆された。本研究を通して、グリア細胞からは神経活動を修飾し得るだけの強力な信号が出得るということが分かり、また、そのメカニズムはこれまで知られていたものと全く異なるということが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
グリア細胞からのグルタミン酸放出は、細胞の脱分極やCa2+によるものではなく、細胞内酸性化によるものであるとの予想外の結果を出すことができた。そこで、細胞内酸性化が最も顕著に現れる状況として脳虚血によるアシドーシスに注目した。虚血時において、グリア細胞において生じる極端な酸性化こそが、グルタミン酸の放出を促し、興奮性神経毒性に至ることを解明した。以上の結果は、Neuron誌に2014年に掲載することができた。本研究成果をもとに、生理的な条件ではどの程度のグリア細胞内pH変動が生じるのか、生理的なpH変動によってグリア細胞からの伝達物質放出は生じるのか、学習等の課題におけるグリア細胞のpH変動やグリア細胞からの伝達物質放出の役割等を解明するための取っ掛かりを得た。
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今後の研究の推進方策 |
これまで、脳虚血によって極端なグリア細胞内酸性化が起きることを示してきたが、問題は、神経活動に応じてのグリア細胞内での各種イオン濃度(Ca2+, pH)の変動がどの程度あるのかという点である。グリア光刺激時と同レベルのグリア細胞内pHやCa2+濃度変動が、生きているマウスの脳内でも生じているのだろうか。これを調べるため、tetO-YCnano50という遺伝子改変マウスの作製に成功したので、FRET光計測を通してグリア細胞内Ca2+濃度が高感度で計測する。また、pHに応じて蛍光が変化する分子を発現する動物の作製も試みており、最適なpHセンサータンパク質をスクリーニング中である。これらの動物を用いて、急性スライス標本を用いて、神経刺激に応じた細胞内局所イオン濃度変化の生理的な範囲を推定する。これにマッチするレベルの反応を惹起するグリア光刺激を用いることで、生理的なグリア細胞の活動レベルが神経活動に及ぼす影響を推定していく。まずは、細胞環境を操作しやすい急性スライス標本を用いた実験を進めるが、続いて、次年度以降の、生きたままの動物を用いた実験につなげるため、in vivo光操作実験の仕組みを工夫していく。
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次年度の研究費の使用計画 |
当該助成金は各種細胞内イオン濃度を計測するセンサー蛍光タンパク質をグリア細胞選択的に発現する遺伝子改変動物を作製するための資金としていた。しかし、動物を作製するとなると、高価である上、長い時間がかかってしまうため、慎重を期すため、平成25年度中には、どのセンサータンパク質が最も目的に適うのかをスクリーニングをしていた。このため、実際の動物作製には至らず、次年度使用額が生じた。 上記のように発現させるセンサータンパク質の種類に目途がついたので、平成26年度には動物の作製を開始する予定である。いくつかの候補も出てきたので、金銭的時間的余裕があれば、複数の動物の作製にも着手する。また、アデノ随伴ウィルスを使うことで、比較的短期間に当該タンパク質を発現する動物が得られることが明らかになった。このための手技を習うことも計画している。ウィルス発現は、使用する動物ごとにウィルス注入を必要とし、毎度の微妙な条件の違いから発現量や発現範囲が変化してしまうという欠点がある。したがって、遺伝子改変動物を作るまでの予備的な調査としての意味合いを持つ。未使用金は平成26年度分とあわせて使用する。
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