研究課題/領域番号 |
25704002
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研究種目 |
若手研究(A)
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
桑木野 幸司 大阪大学, 文学研究科, 准教授 (30609441)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 記憶術 / 初期近代 / イタリア / 建築学 |
研究概要 |
初期近代西欧の空間造形を規定していた原理および美学を、テクスト・絵画・建築の三媒体における建築描写・表象の分析を通じて明らかにしようとする本課題の基礎的テーマとして、初年度にあたる2013-14年度は、記憶術における空間表象の考察を主軸に据えた。とりわけ初期近代の建築的記憶術の一つの頂点をなすコスマ・ロッセッリの著作『人工記憶の宝庫』(1579)、および十七世紀における記憶術の変質を典型的にあらわしているランベルトゥス・シェンケルの著作『記憶術の宝庫』(1609)を中心に、記憶のロクス(=記憶情報の容器)として活用されている建築空間の特質を分析した。 その結果明らかになったのは、両著ともに、建築的器の中に視覚的イメージを配置する、という古典古代の記憶術の基本原理は保持しつつも、初期近代の情報の洪水に対処すべく、ロクスの構成に独自の工夫を施しているという点である。ロッセッリは、地獄から四元素界、地上界、天界を経て天国にいたるコスモロジカルなロクスを設定したうえで、百科全書的な知識、たとえば博物学や神学、天文学、地理学等の知識を柔軟にロクスのディテールに取り込んで、記憶情報をしまいこむための空間を圧倒的に拡幅している。一方シェンケルのアプローチはこれとは対照的に極度に数学的・抽象的で、幾何学的な家屋を想定したうえで、壁を実質上無限に分割することによって、膨大な情報の収蔵を可能としている。 いずれの事例も情報の効率的な処理のために建築空間の特性を活用しており、初期近代の建築学が有していた機能主義や審美学以外の、いわゆる認識補助的な側面の一端が明らかになったといえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、1. テクストの中の建築表現の分析と、2.記憶術における建築的ロクスの分析を同時に進める予定であったが、「2.」のほうのテーマが予想以上に進展したためこちらに時間を集中することとし、「1.」の課題については、未着手の部分は次年度に先送りすることにした。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、初年度に本格的に着手できなかった、テクストの中の建築描写の分析に的を絞ってゆく。具体的には、ウィトルーウィウス建築論の注解書を執筆したヴェネツィアの人文主義者ダニエーレ・バルバロの建築思想について、特に彼の計画になるパドヴァ植物園の構成について詳しく考察してゆく。 ボローニャ、ミラノ、ライデンに残されている16世紀当時のパドヴァ植物園の花壇図面および栽培植物記録から、当時の園内空間の用法の傾向を抽出し、それらをバルバロの建築思想と比較する。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究協力者一名がフランス研究滞在を行う予定であったが、参照予定資料の一部がデジタル化・WEB公開されていることが判明したため、経費削減のために研究滞在を取りやめた。旅費の一部は文献購入費に充てた。 予定どおり、フランスへの研究滞在を実施する。
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