研究課題/領域番号 |
25704002
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
桑木野 幸司 大阪大学, 文学研究科, 准教授 (30609441)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 初期近代 / イタリア / 建築学 / 植物園 / 記憶術 |
研究実績の概要 |
初期近代西欧の空間造形を規定していた原理および美学を、テクスト・絵画・建築の三媒体における建築描写・表象の分析を通じて明らかにしようとする本課題の基礎的テーマとして、二年目にあたる2014-15年度は、テクストと庭園空間の関連性についての考察を主軸に据えた。とりわけヴェネツィアの人文主義者ダニエーレ・バルバロ(1513-70)の事跡に注目し、彼が建設監督をしたとされるパドヴァ植物園(1545)について、関連一次資料の精査をもとに分析をすすめた。 先行研究においては、バルバロの植物園建設への関与については肯定派と否定派に意見が分かれ、決定打を書いていたが、本研究により、バルバロが庭園デザインにかなり踏み込んで関わっていた可能性を、説得力をもって示すことができた。具体的には、バルバロの著作である『ウィトルーウィウス注解』ならびに『雄弁について』を丹念に読み解き、そこに見られる空間の美学を分析したうえで、図面から読み取れるパドヴァ植物園の空間構成と比較することで、上記仮説の補強を行った。また、パドヴァ大学で学位を取得したバーゼルの百科全書主義者テオドール・ツヴィンガー(1533-88)の著作『人生の劇場』(1565)に着目し、同書において情報処理のメタファーとして展開されるパドヴァ植物園の描写が、バルバロの空間美学と通底することを示すことで、バルバロと植物園の関係を再検討した。 これらの分析を通じて、初期近代の知識人の活動においては、物理空間の設計と、精神内の情報処理用仮想空間の構築とは非常に密接に関連していること、また、テクストによる空間描写が、単なる修辞技巧にとどまらない、建築設計的な側面をも持ちうることを、説得力をもって示すことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2013-14年度は、1. テクストの中の建築表現の分析に特化し、パドヴァ植物園とダニエーレ・バルバロの事例を集中的に分析した。その結果、テクストと物理空間の関係について、これまで建築史・美術史・文学史・思想史において指摘されてこなかった新たな知見を多数示すことができ、その成果は、2015年出版予定の国際論集に、論文として掲載されることが決っている。したがって、当該年度の研究は、計画通りに進んでいるものと、自身をもって断言できる。
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今後の研究の推進方策 |
前年度までに、記憶術と建築の関係、ならびにテクストと建築の関係について、具体事例をもとに詳細な分析を行い、当初の予想を大きく成果を得ることができた。 今後は、記憶術と情報整理の観点から重要な意義を持つランベルトゥス・シェンケルの記憶術論を中心に分析し、情報処理用の仮想空間と、実際の物理的建築空間とが、テクストを媒介としていかに連関するのかを、丹念に分析してゆく。その成果は、2015年7月9日開催予定のイタリアのレッジョ・エミーリアにおける国際ワークショップ、ならびに同月18日に学習院女子大学で行われる国際シンポジウムの場にて、英語で発表することが決定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
海外研究協力者のUtzima Benzi氏との研究打ち合わせが、先方の都合で実現できなかったため、その分に想定していた旅費相当の額が余剰金として残った。
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次年度使用額の使用計画 |
今後もUtzima Benziとの研究協力は継続してゆくが、もし引き続き、先方の都合がつかない場合は、もう一人の課医学研究協力者である Paulina Spiechowicz (パリ在住)との研究打ち合わせのための諸経費として使用することにする。
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