初期近代西欧の空間造形を規定していた原理および美学を、テクスト・絵画・建築の三媒体における建築描写・表象の分析を通じて明らかにしようとする本課題の最終年度にあたる2015-2016年度は、前年までの資料調査・整理ならびに分析の成果を統合する作業を中心に行った。 とりわけ、仮想の建築空間をベースとする初期近代の記憶術に着目し、なかでも、西欧の記憶術的伝統の頂点に位置すると見なされている、Lambert Schenkelによる記憶術論集『Gazophylacium artis memoriae』(記憶術の宝庫)(1609年)を重点的に分析して、当時の情報編集におけるイメージと空間の創造的融合プロセスの一端を明らかにした。とりわけ、記憶術という知的方法論が、ラムス的な「方法」論と独創的な仕方で融合していることを、本研究によってはじめて指摘した点は、内外の研究者から高い評価を受けた。それらの成果は、イタリアおよび日本における国際シンポジウムにて、英語で発表を行い、そのうちイタリアで報告したものは、Brill社より2017年に刊行を予定している。 その一方で、初期近代の庭園空間にも分析の範囲を広げ、当時の庭園が、博物標本や古代彫刻・遺物、芸術作品等を蒐集し、展示するための、非常に知的テンションの高い空間であったことを明らかにした。さらにそうした空間の使われ方、すなわち初期近代における庭園の一般公開の制度についても考察を加え、庭園空間を観光資源としてとらえる可能性を提示した。その成果は奈良文化財研究所のシンポジウムにて報告を行った。
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