研究課題/領域番号 |
25704006
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研究種目 |
若手研究(A)
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
河内 重雄 九州大学, 人文科学研究科(研究院), 専門研究員 (10581530)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 知的障害 / 比較文学 |
研究概要 |
本研究の全体的な目的は、日本近・現代文学における知的障害者表象を通史的に研究し、知的障害者観・人間観を多角的に明らかにしつつ、これから知的障害者や人間、社会の諸制度をどう考えられるかを検討することである。日本文学における知的障害者観・人間観を多角的に明らかにする上で、比較文学は有効な研究方法と考える。本研究の目的は、比較文学研究を行う上で必要な、知的障害者を描いた韓国の文学作品及び知的障害関連の事項のデータベースを、構築することである。 本年度の課題は、戦前・戦後の知的障害者を描いた韓国の文学作品を、リストアップすることである。文芸雑誌等を調査することで、50近い文学作品をリストアップすることができた。リストアップされた作品は、李無影「呉道令」、金裕貞「만무방」(「恥知らず」)、桂鎔黙「백치 아다다」(「白痴アダダ」)、金廷漢「寺下村」、金東里「黄土記」、大沢達雄(金達寿)「汽車弁」、李泰俊「夕陽」、朴啓周「乳房」、呉永寿「龍淵挿話」、金利錫「학춤」(「鶴踊り」)などである。 本年度の研究の意義・重要性としては、知的障害者が登場する多くの韓国の文学作品がリストアップされたことで、比較文学研究のための準備がある程度整ったこと挙げられる。今回の調査結果により、韓国の文学研究者も、自国の文学における知的障害者表象を体系的に研究することの意義が確認できるのではあるまいか。日本文学における知的障害者表象との大きな違いとして、韓国文学には、知的障害者の結婚をテーマとする作品が多数みられることが明らかとなった。なぜこのような違いが生ずるのか、韓国の諸制度等に関する調査は来年度の課題だが、日韓の文学作品における知的障害者表象の差異や特徴を明らかにし得た点も、意義・重要性と言えよう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の課題は、韓国で発行された文芸雑誌等を調査し、戦前・戦後の知的障害者を描いた韓国の文学作品を、リストアップすることである。調査とはこの場合、雑誌の目次などをチェックすることではなく、雑誌を一ページ一ページめくって、「天痴」(日本語の「白痴」にあたる、差別用語)などの語を、拾っていく作業のことである。 1年間の調査で、多数の文芸雑誌を幅広い期間にわたって調査することができた。この調査については、主に申請者と、九州大学人文科学府の韓国人留学生3人とで、約10か月にわたって行った。一人一人がひと月平均20時間くらい作業を行うことができたのが、調査研究がおおむね順調に進展した理由と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の今後の推進方策については、これまでのところおおむね予定通りに進んでいると言えるため、予定通り韓国における知的障害関連の事項(法律の制定や教育改革、福祉関係の出来事、映画等の製作、事件など)の調査に移る。平成25年度にリストアップした、韓国における知的障害者を描いた文学作品の分析も行うが、知的障害関連の事項の調査は、この分析を踏まえつつ行う。知的障害者を描いた、研究対象として妥当な文学作品の書かれた時期の、教育・福祉関係の雑誌や書物を、研究協力者の協力を得ながら、幅広く調査する予定である。その調査を踏まえ、平成27年度に比較文学研究を行うことになるため、研究対象として選んだ韓国の作品と同時期の、知的障害者を描いた日本の文学作品の分析及び分析に必要な下準備も、ある程度進めておこうと考えている。
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