研究課題/領域番号 |
25704006
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研究機関 | 北九州市立大学 |
研究代表者 |
河内 重雄 北九州市立大学, 文学部, 准教授 (10581530)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 知的障害 / 比較文学 |
研究実績の概要 |
本年度の課題は、知的障害者に関わる戦前・戦後の福祉や教育関係の著作・雑誌等を調査することである。韓国では1961年に生活保護法が公布され、不十分ながらも障害者等の生活の保護がなされるようになる。1966年に韓国初の公的な「精神薄弱児」養護学校設置。1981年に制定された心身障碍者福祉法は1989年に全文改正、障碍人福祉法として公表され、障碍人の登録制度や、手帳・手当制度等が導入される(同法は1999年、2007年に全面改定)。2000年には国民基礎生活保障法が施行され、これまでの生活保護法などによる不十分な公的扶助制度は大きく改善されることとなる。以上からも明らかなように、韓国の福祉等の研究は、1960年代を韓国の福祉等の始まりとした上で、それ以降の法や制度について考察したものが圧倒的に多い。 戦前の朝鮮については、1944年に朝鮮総督府により朝鮮救護令が施行されている。これは、1929年制定の日本の救護法と大部分同じもので、1961年に生活保護法が制定されるまで、同法が韓国における公的扶助の根拠法だった。朝鮮救護令以前に公的扶助に関する法はなく、「白痴者」などの生活力のない者の生活の保障は、基本的に家族の義務だったと考えられる。総合雑誌『朝鮮及満州』等によると、「白痴者」等を保護する施設についても、朝鮮総督府医院の精神病室(1913年設置)があるのみで、患者約70人の半分くらいは日本人が占めていたようだ。皮肉なことに、日本の植民地政策が、韓国の福祉の始まりだった訳である。 以上、本年度の研究の意義・重要性としては、雑誌等の調査を通して、韓国の福祉や教育に関する情報をデータベースに反映することができたことが挙げられる。特に、調査・研究が手薄な戦前の福祉関係の情報は、戦前の朝鮮に関わる小説を研究する上で役立つとともに、福祉関係の研究者にとっても有益なものであると考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の課題は、教育や社会学等の知的障害関連の著作・雑誌の調査・リストアップ及び分析をすることである。調査とはこの場合、知的障害を表す言葉を、雑誌等を一ページずつめくって拾う作業のことである。雑誌の目次を見ただけではリストアップできない記事は無数にあるため、このような作業は不可欠と言える。 1年間で多数の著作・雑誌を調査することができた。期間としては、1900年代(明治40年代)から現在までだが、申請時にも述べたように、その調査の重要性から、日本統治時代(1910~1945)に力点を置いて調査した。この調査は、主に申請者と九州大学人文科学府の院生2人とで、約10か月にわたり行った。一人一人がひと月約25時間くらい作業を行うことができたのが、調査研究がおおむね順調に進展した理由と考える。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の今後の推進方策については、これまでのところおおむね順調に進展していると言えるため、当初の予定通り、2年間の調査で構築したデータベースを分析し、韓国の知的障害者概念に明確な変化が生じた時期を特定する作業に移る。変化の生じた時期の、概念の変化と関わりのある主要な文学作品と、同時期の日本の知的障害者を描いた小説との比較・考察を中心に行う。その際、本年度の調査で得た当時の福祉や教育関係の情報を、必要に応じて参照する。年度末には、比較・考察によって、日本近代文学における知的障害者表象のどのような特徴が新たに明らかになったのかを公表するが、その際、資料として、2年間の調査研究で作成したデータベースを付す予定である。
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