研究課題
円満な社会生活を送る上で他者との関わりを維持することは不可欠である。齟齬なく他者との意志疎通を図り共同行為を成功させるためには、話し手が情報を正しく伝えるだけではなく、聞き手がその情報を確実に記憶に定着させ行為の実現に貢献しなければならない。言語性作業記憶(verbal working memory)には、感情の効果が認められるという。「うれしい」「かなしい」等の感情語の再認の成績は中立語よりよいことが報告されている(Levens & Phelps, 2008)。本若手A課題では、与えられた文を理解し記憶に定着させる際の肯定的/否定的感情語の果たす役割の神経基盤について、磁気共鳴機能画像法 (functional magnetic resonance imaging: fMRI) を通して検討した。行動データとfMRIデータの分析の結果、その文が先の文処理課題で提示されたものであったか否かを問う文再認課題遂行中の脳機能において、感情効果が認められた。肯定語を含む文の再認では、中立語を含む文に比べて両側眼窩回の活動が亢進した。否定語を含む文は、中立語文に比べて左眼窩回、右中側頭回、左嗅皮質、右紡錘状回が賦活した(p < .001 uncorrected, k = 50 voxels)。文を再認する際の感情語の働きは、主に大脳辺縁系の周辺に認められることが観察された。肯定/否定両条件の感情語に眼窩回が関わることは、単語再認課題における感情効果の神経基盤を検討した先行研究と一致する (Maddock, et al., 2003)。さらに、とりわけ否定的感情語を含む文の再認において、嗅皮質や紡錘状回など辺縁系のより広範囲での亢進が見られた。若年者は、文の再認において、肯定的感情語より否定的感情語に強く反応することが示唆される。
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