本年度は、これまでに得られた成果を国際学会および論文で発表するために一年延長した研究期間にあたり、予定通り2017年7月にフランスで開催された国際医学地理学シンポジウム(17th International Medical Geography Symposium)での発表をおこなうとともに、論文の執筆・投稿をおこなった。その内容は、主に、2015年に実施したインターネット調査による個票データを用いた、睡眠、身体活動、精神的健康と近隣環境の関連性についてのマルチレベル分析の結果についてである。睡眠に関しては、近隣騒音と不眠症状・短時間睡眠との強い関連性の存在と、騒音を感じる時間帯による関連性の差異について明らかにした。身体活動については、人口密度や商業集積などの指標から構成されるウォーカビリティ指標が、実際に住民の歩行量と関連していることを明らかにし、またそれが地域の社会経済的状況(剥奪指標)によって異なるのかどうかの検証も進めた。さらに精神的健康に関しても、近隣の社会経済的状況が不利な条件にある地域の住民ほど心理的苦痛を感じやすいことを確認した。これらはいずれも、国際学会での発表や、国際誌や国内専門誌への掲載を通じて成果を公表した。また、これまでの研究成果の一部を収録した書籍を出版した。他にも、同様の研究関心をもつ研究グループとの共同研究を発展させ、日本各地の疫学調査データと近隣環境指標を紐づけたデータ分析によって、「近隣と健康」に関する日本の実証研究の蓄積を進めた。
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