注意制御中には様々な脳領域の間での注意制御信号の相互伝達により領域間の結合状態が強化・減弱し、脳内ネットワーク特性が変化することによって様々な感覚系からの入力の素早い正確な認知が可能になると推測されている。しかし、ネットワーク特性の変化について実証的な研究はこれまで行われてこなかった。一方、我々の日常生活は多感覚的な環境下にあるが、これまでの注意研究の多くは単一感覚系に焦点を当てたものが多かった。そこで本研究では多感覚性注意制御の神経機構を解明するために、視覚、聴覚、触覚刺激を用いた注意課題における注意制御期間中の脳内ネットワークの機能的特性の動態を明らかにすることを目的とした。 本年度は、昨年度までの研究から引き続き、脳磁場データのネットワーク解析により脳内ネットワークの機能的特性のダイナミクスを検証するとともに、経頭蓋的磁気刺激(Transcranial magnetic stimulation: TMS)を用いて重要な脳領域の実際の関与を検証した。脳磁場データのネットワーク解析により前頭前野が注意を制御する際に重要な役割を果たすことが明らかとなったため、多感覚性注意課題中に被験者の前頭前野をTMSにより刺激したところ、課題成績が低下した。これらのことから前頭前野は単にネットワークの中心として機能するだけでなく、注意制御に実際に関わる可能性が示唆された。
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