本研究では、レム睡眠の選択的な抑制(レム断眠)が感情記憶の銘記と忘却に与える効果を明らかにすることを目的とした。同時に、レム断眠が連合記憶に及ぼす効果を検証した。検証の結果、感情写真記憶および連合記憶の記銘能力は、前夜の全断眠に影響を受け、低下することが明らかになった。しかし、両記銘能力はレム断眠の影響は受けないことが分かった。この結果は、ヒトの感情記憶や連合記憶の記銘には前夜のレム睡眠ではなく、ノンレム睡眠が大切であることを示している。本研究結果は、連合記憶の記銘には前夜のノンレム睡眠が重要であるという従来の知見を追認しただけでなく、感情記憶の記銘には、レム睡眠よりもノンレム睡眠が重要であるということを明らかにした。さらに、断眠が記憶の銘記に与える影響は、刺激の感情価に関わりなく生じることを確認した。本年度は最終年度であるため、前年度までに実施した実験データを詳細に解析し、研究をまとめた。次の研究課題を発掘するために、文献調査を行い、レム睡眠が、連合記憶だけでなく、視覚運動記憶に及ぼす影響を調べることが課題として残った。また、レム睡眠中に記憶の改変が生じている可能性を追求することが次の課題として残った。本研究によって、レム睡眠は記憶の記銘にはほとんど関与していないことが分かった。今後は、本研究で確立したレム断眠法を洗練させ、断眠後の記憶の記銘だけでなく、睡眠中の記憶の定着や改変について調べていく。
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