平成27年度の主な成果は、以下の通りである。 1.電子スピン共鳴法を用いたドーパント原子の解析。 電子スピン共鳴法の精密計測技術を確立し、これを用いてシリコン中のドーパント原子(リン、ヒ素、アンチモン)を詳細に解析した(Appl. Phys. Lett. 2015掲載)。また、この精密計測技術を基盤として、下記のEDMR計測を行った。 2.EDMR測定技術の確立と信号の取得。 電気的にスピン共鳴を検出する手法:EDMR(Electrically detected magnetic resonance)の高感度化、およびMOSトランジスタ中の欠陥準位のEDMR信号の取得を目的とした。ここでは特に、トランジスタを電子スピン共鳴装置のキャビティ内に挿入するために、新たにサンプルホルダを設計した。サンプルホルダに含まれる微量なスピンに由来するゴースト信号を抑制するため、サンプルホルダの材料の選定から行った。サンプルホルダ材料のほかにも、配線材料、デバイス固定材料等について、(キャビティー内での)それぞれのQ値を詳細に調べ、EDMR計測に最適なサンプルホルダの設計を行った。また、ノイズを抑制するためのフィルターの配備や、低ノイズ電源の選定も行った。 上記の結果、MOSトランジスタのEDMR信号を観測することに成功した。測定から求めたg値より、信号の起源はシリコンダングリングボンドであると結論付けた。また、前年度より測定手法を確立してきたチャージポンピング法に、EDMRを組み合わせたチャージポンピングEDMR法の立ち上げも行い、この信号の観測にも成功した。これらの成果は、少数個の電子スピンを精密に検出するための基礎技術となる。
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