研究課題/領域番号 |
25706004
|
研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
関口 康爾 慶應義塾大学, 理工学部, 講師 (00525579)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | スピントロニクス / マグノン / マグノニクス / ナノ材料 / 磁性 |
研究実績の概要 |
磁性絶縁体YIGにおけるマグノン量子凝縮を観測するため、YIG試料およびマイクロ波ストリップラインとペルチェ素子構造をブリルアン散乱分光装置レーザー系に取り込んだ。マイクロ波ストリップラインに注入するマイクロ波強度を最大で数Wに達するように、マイクロ波アンプによって入力マイクロ波を増幅し、マイクロ波照射法(パラメトリック励起)によって引き起こすマグノン数増大過程を、液相エピタキシャルYIG試料において研究した。 マグノン信号を光散乱の周波数シフトとして検出するBLS分光法により、エネルギー保存則と運動量保存則を満たすようにマグノンが対生成する。今年度の実験研究によりパラメトリック過程を精度良く実現することに成功した。印加磁場に対して平行にマイクロ波を注入する場合と、垂直に注入する場合での励起閾値の差があり、対生成したマグノン数が指数関数的に増大することを観測した。一方で、マグノン量子凝縮の研究には運動量空間(マグノン波数)の情報を精度良く検出しなければいけないため、既存BLS装置に新たに波数分解能を持たせる装置改造を行った。また強大なマイクロ波を連続波として注入し続けることは、パラメトリック励起における熱効果を増大化し、量子凝縮現象の研究を阻害することが明らかとなったので、熱の効果を排除するためにパルスパターン信号発生器と高速スイッチによるパルス・マイクロ波励起法の導入を行った。パルス励起法により試料における発熱量を大幅に改善することができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マグノン量子凝縮の実現には、マグノン運動量状態を指定したBLS分光法と熱擾乱を排除するための技術を確立する必要性が見つかった。本年度、その波数分解能をもたせる装置改良とパルス・パラメトリック励起法の導入を終えたことで、最終年度で、マグノン量子凝縮における熱的スピン流注入効果、およびスピンホール効果によるスピン流注入効果を研究することができるようになった。 一方、比較的磁気損失が高い金属を用いて量子凝縮を目指す実験研究においては、電子線描画装置の故障によって超微細加工試料作成ができない不運が続いたが、最終年度でスピントルク法(スピン注入法)によるマグノン励起実験および量子凝縮実験を行うことができるため。
|
今後の研究の推進方策 |
量子凝縮体としての伝搬現象や巨視的コヒーレンス現象を観測するため、空間・波数分解を有した上での磁性絶縁体YIGにおけるBECを実現する。マグノンBEC状態を局所的に達成させて、外部パラメータを制御してBECの実現レートを変調できるようにする。また、スピン流だけで角運動量を受け渡してマグノンを生成する”直流スピントルク法”をあたらしく考案・構築する。磁性材料YIGやFeNiを微細加工し、スピン流注入素子を作製し、スピン流注入端子近傍のマグノン密度をu-BLS装置で観察する。
|