研究課題/領域番号 |
25706023
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研究種目 |
若手研究(A)
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
福間 剛士 金沢大学, 電子情報学系, 教授 (90452094)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 原子間力顕微鏡 |
研究概要 |
本研究では、3次元走査型力顕微鏡(3D-SFM)を高速化し、従来観察が困難だった不均一な表面、動的に変化する構造、凹凸のある表面などにおける水和構造や揺動構造の3次元時間分解計測を行うことを目的としている。そのために、本年度は、3D-SFMのベースとなる周波数変調原子間力顕微鏡(FM-AFM)の高速化に取り組んだ。 FM-AFMの速度は、探針に印可される力の検出限界(力分解能)と探針―試料間距離の制御帯域の2つによって制限される。力分解能を向上させるために、われわれは小型カンチレバーを用いた。ただし、小型カンチレバーには電子ビーム堆積(EBD)カーボン探針が使われており、その溶出による汚染や、その熱振動による分解能の低下が問題となっていた。われわれは、既成の探針を除去し、そこに微粒子を取り付け、その上にカーボン探針生成し、それをシリコンでコーティングすることにより、両方の問題を解決した。一方、制御帯域の向上のためには、FM-AFMを構成するすべての要素を高速化する必要がある。本年度は特に、周波数検出器、およびカンチレバー励振信号生成回路として用いている位相同期ループ(PLL)回路の高速化と、探針―試料間距離のフィードバック制御に用いているPI制御部の高速化に取り組み、それらの大幅な高速化を達成した。 以上の改良により、従来1フレームあたり1分程度かかっていた計測時間を1~2秒程度まで短縮することができた。さらに、液中におけるカルサイトの結晶成長過程を原子分解能で観察することに成功した。この結果から、ステップエッジに、約2 nm程度の遷移領域が存在することが分かった。この構造は、ステップエッジの影響により、テラス上とは異なる水和構造がステップ得次形成されていることを強く示唆している。このように、FM-AFMを高速化することで、従来の技術ではわからなかった新たな知見が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、高速3D-SFMの基礎となるFM-AFMの高速化を実現した。本来の予定では、この後、3D-SFM計測へと高速化されたFM-AFMを応用する予定であったが、それには至らなかった。ただし、速度を律速する要因はFM-AFMと3D-SFMで共通であり、あとはソフトウェアの問題なので、根本的な問題については、本年度のうちに解決できた。さらに、高速FM-AFMの性能確認のために実施したカルサイトの結晶成長過程の観察実験においては、ステップエッジにおける原子レベルの挙動を解明することができ、予定以上の成果が得られたといえる。これらの成果を全体的に評価すれば、概ね順調に計画は進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究により、FM-AFMを高速化することができたため、この装置に3次元走査機能を付加し、高速3次元計測を実現する。これを実現するために、高速FPGA回路に3次元走査機能を実装するとともに、データを高速にPCに転送・表示・収録するソフトウェアを開発する。一方で、高速FM-AFMにより明らかになったカルサイトの結晶成長過程のステップエッジ近傍に見られる遷移領域についても、引き続き計測を行っていく。特に、高速3次元走査が可能となれば、ステップ近傍での3次元水和構造の時間変化を明らかにすることができるものと期待される。一方で、当初予定していた通り、膜タンパク質などの生体分子系試料の観察準備にも取り組む。このような生体試料をAFMで観察するためには、AFM観察に適した試料調製手順を確立するまでに長い時間を要する場合がある。したがって、高速3次元AFMが完成する前に、試料の作製方法を確立するための実験を並行して行う。最終的には、光刺激やpH変化などの刺激を試料に与え、それによって生じる水和・揺動構造の変化を明らかにする。
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