本研究では、3次元走査型力顕微鏡(3D-SFM)の動作速度・安定性を飛躍的に向上させ、固液界面現象に伴って生じる水和・揺動構造の時間変化を直接観察することを目標としている。本年度は、3D-SFMによって計測された3次元力分布像と3次元水和構造との関係について、大きな理解の進展が見られた。原子レベルの分子動力学法(MD)シミュレーションの専門家であるAalto大学のFosterらと協力して、3D-SFM計測時に探針の走査が水和構造に与える影響や、その結果として測定される力分布に与える影響などを詳細に解析し、従来からの疑問であった、ナノスケールの探針によって原子レベルの水和コントラストが得られる理由について明確な説明を世界で初めて与えることができた。また、同じくシミュレーションの専門家であるUCLのShlugerらや流体力学を専門とする京都大学の天野らと協力して、3D-SFMで計測される力分布像と水和構造との定量的な関係を記述するための簡単化したモデルとして溶媒探針近似(STA)モデルを提案した。さらに、このモデルに基づいて、シミュレーションによって求めた3次元水和構造を力分布像へと変換し、それを実験的に測定した3次元力分布像と比較した。その結果、本手法の有用性と限界を明確に説明することができた。これらの成果は、3D-SFMを実用化するために必要な理論的基盤の確立に大いに貢献するものである。また、高速周波数変調原子間力顕微鏡(FM-AFM)によって、カルサイトの溶解過程を直接原子分解能観察し、その表面の原子ステップ端近傍に原子ステップよりも低い高さを持つ遷移領域が存在することを明らかにした。さらに、その領域の起源について、実験とシミュレーションの両面から調べてきたが、それが明らかになりつつある。現在、その結果をまとめて論文投稿を準備している。
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