研究課題/領域番号 |
25706026
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
宮丸 文章 信州大学, 学術研究院理学系, 准教授 (20419005)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | メタマテリアル / 双極型分散媒質 / テラヘルツ波 / ハイパーレンズ |
研究実績の概要 |
本研究では,テラヘルツ波と呼ばれる電磁波領域において,電磁波の波長よりも小さいイメージ(以後,近接場イメージと呼びます)情報を,波長よりも大きいイメージ(以後,遠方場イメージと呼びます)情報へ変換することのできる,ハイパーレンズと呼ばれる光学素子の開発を行うことを目的としています。このような光学素子を作製することによって,テラヘルツ領域において,生体物質などの近接場イメージをリアルタイムで観測することを目指しています。 本年度では,昨年度作製したワイヤー媒質の各ワイヤーの幅を扇型に広げることにより,ハイパーレンズを作製しました。具体的には,ハイパーレンズ入り口のワイヤー間隔に対し,出口ではワイヤー間隔を3倍にすることにより,入り口の近接場イメージを出口面において3倍に拡大する構造を作製しました。このハイパーレンズの入り口面に400ミクロン間隔のダブルスリットを置き,テラヘルツ波を入射したところ,出口面において1.2ミリメートルに拡大されたイメージが観測されました。ここで観測に使用したテラヘルツ波の周波数は0.5THzであり,出口面のイメージが波長(600ミクロン)よりも大きくなっていることから,この結果は近接場イメージを遠方場イメージに変換できたものと考えることができます。 また,このようなハイパーレンズを最終的に生体物質のリアルタイムセンシング応用に用いるために,メタマテリアルによる液体の高感度センシング応用に関する特性を調べました。さらに,より高感度なセンシングのために,群遅延制御メタマテリアルの特性を調べました。これらの結果は,ハイパーレンズをワイヤー型導波路の集合体としてとらえ,積層による作製手法の特徴を活かすことにより,群遅延選択性や周波数選択性などの機能の付加が可能になることも意味しています。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,ハイパーレンズの試料の作製手法を確立するという昨年度の結果を踏まえ,近接場イメージを遠方場イメージに変換するハイパーレンズの実際の作製と,そのテラヘルツ波伝搬特性を観測することを一つの課題としてきました。昨年度に作製したワイヤータイプの双極型分散媒質をベースとして,入り口と出口でワイヤー間隔が3倍程度異なるように扇型にしたハイパーレンズを実際に作製しました。このハイパーレンズの入り口に400ミクロン間隔のダブルスリットを置き,そのイメージを10ミリメートルの長さのハイパーレンズを伝搬させたところ,1.2ミリメートル間隔のダブルスリットのイメージが転写されていることを観測しました。観測に使用したテラヘルツ波の波長が600ミクロンであることから,この結果は近接場イメージを遠方場イメージに変換できたものと考えることができます。 以上のことより,本年度は概ね順調に進展していると考えています。
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今後の研究の推進方策 |
今後は,本年度に作製したハイパーレンズの拡大倍率と光利用効率の拡大を目指しています。具体的には,ハイパーレンズの拡大倍率を現状の3倍からさらに増大させることを課題としています。これにより,より明確な近接場イメージから遠方場イメージへの変換が実現します。最終的には,ハイパーレンズ出口面の遠方場イメージを従来のレンズでテラヘルツカメラなどに再結像させることを目指しているので,このハイパーレンズの拡大倍率の増大は重要な課題の一つです。また,それに伴い,ハイパーレンズの透過光量が下がるものと予想されます。そのため,ハイパーレンズの倍率の増大とともに,入射したテラヘルツ波の利用効率も同時に上げることが必要になってきます。具体的な方法として,出口面における空気側とのインピーダンスマッチを取ることが出来る構造設計を行っていく予定です。 また現在進めている,テラヘルツ電場の2次元分布を測定する装置の構築を進めていきます。スキャン型イメージング及び,テラヘルツ波のリアルタイムイメージング装置の構築を行い,ハイパーレンズとともに用いることによって,近接場リアルタイムイメージングを行っていく予定です。 さらに,2次元シートの多層構造によりハイパーレンズを作製するという手法の特徴を活かして,群遅延選択性や周波数選択性及び偏光選択性などの機能をもたせることを目指します。具体的には,ハイパーレンズ入り口に,共鳴型メタマテリアルを作製することにより,周波数選択性などをもたせ,高感度なセンシング応用への可能性を調べます。さらに,各ワイヤーを導波路の集合体としてとらえることにより,共鳴構造メタマテリアルを各ワイヤー導波路に入れ込むことにより,ハイパーレンズに様々な機能を持たせることを予定しています。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画で見込んでいたよりも安価に研究を進めることができたため,次年度使用額が生じました。
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次年度使用額の使用計画 |
既存装置として使用していました再生増幅フェムト秒パルスレーザーシステムの一部であるCWレーザーを購入する予定をしています。再生増幅フェムト秒パルスレーザーは,本研究の目的であるハイパーレンズを作製するために必要不可欠なものでして,かつリアルタイムイメージング装置の構築にも同様に必要不可欠です。この再生増幅フェムト秒パルスレーザーは主に4つのレーザーで構成されていますが,そのうちの1つのレーザー(CWレーザー)の出力が経年劣化によって極端に減少し,装置全体として,最終的に必要なレーザーパルス出力が得られない状況になっています。そこで,現在,出力が得られていない1つのレーザーをリプレイスすることを計画しています。
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