研究課題/領域番号 |
25706028
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研究種目 |
若手研究(A)
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
加藤 俊顕 東北大学, 工学(系)研究科(研究院), 講師 (20502082)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | グラフェンナノリボン / プラズマCVD / 合成機構 |
研究概要 |
三年計画の一年目である今年度はグラフェンナノリボン合成機構におけるプラズマ効果の解明に特化した研究を行った. 熱CVDとプラズマCVDの比較を通じたプラズマ効果の検討を行った結果, 本手法における最大の特徴の一つであるニッケルの蒸発量(グラフェンナノリボンの析出と同時に発生)に関して極めて興味深い結果が得られた. 合成温度を700℃から1000℃の範囲で固定し, 各温度条件におけるCVD後のニッケル蒸発量を熱CVDとプラズマCVDにおいて比較した結果, 熱CVDでは800℃付近で急激なニッケル蒸発が観測されるのに対し, プラズマCVDの場合は, 900℃の時点でも極めて低いニッケル蒸発率を有することが判明した. ニッケル―炭素混合物質におけるニッケルの沸点は, 炭素混入量が増えるにつれ上昇する傾向があることが, これまでの他のグループによる研究により報告されている. 従って, 本手法においては, プラズマにより高密度の炭化水素活性種が生成され, 高効率でニッケル中に炭素供給が行われた結果, ニッケル中炭素濃度を熱CVDの場合に比べ格段に高めることができたと考えられる. これにより, グラフェン析出に必要とされる比較的高い温度条件(900℃以上)においても, ニッケル薄膜を蒸発せずに触媒として機能する固体状態に保持することが可能となったため, ニッケルナノバーからのグラフェンナノリボン合成が実現したと説明できる. このモデルは, 熱CVDではニッケルナノバー構造が壊れてしまいグラフェンナノリボンが合成できないという結果とも一致するものである.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の目標は, グラフェンナノリボン構造(特にリボン幅)を決定している要因を明らかとすることであった. グラフェンナノリボンの幅は, バンドギャップを決定している直接的要因であることから, リボン幅を決定している要因の特定は, グラフェンナノリボンのデバイス応用に向けて重要な課題である. 今年度はこの目的のもと, グラフェンナノリボン合成機構解明に向けた実験を行った. その結果, プラズマによる高効率度炭化水素供給がグラフェンナノリボン合成において重要な要因であることが判明した. グラフェンナノリボン幅を決定している直接的要因の特定には至っていないものの, 今年度明らかにしたプラズマ効果を積極的に活用することで, グラフェンナノリボン幅を決定している要因の特定はもちろん, ナノリボン幅の精密制御を通じたバンドギャップ制御も実現可能であることから, 今年度はおおむね計画通りに進展したと判断した次第である.
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今後の研究の推進方策 |
三年計画の二年目にあたる次年度は, 前年度までに合成に成功しているグラフェンナノリボンに対して, 構造機能化に関する研究を中心に行う. 具体的には, グラフェンナノリボンのエッジに選択的に窒素をドーピングすることにより, 通常p型伝導特性を示すグラフェンナノリボントランジスタをn型化することを目指す. グラフェンエッジの選択的機能化は, これまで我々が開発に成功しているマイルドプラズマ反応を活用する. プラズマ中の電子温度が極端に低下したマイルドプラズマを活用することで, 基板へのイオン入射エネルギーを極限まで低下することが可能であることから, グラフェンナノリボン面内には欠陥を生成せず, エッジのみに選択的に窒素をドーピングすることが可能であると考えている. さらにこの手法を利用して, グラフェンナノリボンのpn接合ダイオード, 及びそれらを集積化することでインバーターの形成を目指す. 空間選択的なn型化は, フォトリソグラフィにより, グラフェンナノリボンをp型動作させる領域をマスクで覆い, その後マスクで覆われていない領域のみをマイルドプラズマ反応でn型化することで実現する. 本手法により, インバーターの動作実証が実現できれば, グラフェンナノリボンの電子回路素子としての実用化に向けて大きな成果となると考えている.
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