研究課題/領域番号 |
25706029
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
成瀬 雅人 埼玉大学, 理工学研究科, 助教 (10638175)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 超伝導検出器 / 放射線検出器 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、食品中の放射線量検出システムに使用する超伝導検出器アレイの基礎開発である。本研究で開発する放射線検出器の特徴は高速動作・高感度かつ位置分解可能な点にある。検出器には超伝導共振器の特性を利用し、高感度かつ多素子化が容易な力学インダクタンス検出器を用いる。放射線の吸収体として鉛を使用する。吸収体で放射線のエネルギーが熱及びフォノンに変換され、それらを検出する。また放射線検査の利便性を高めるため無冷媒かつ持続的に低温度が維持できる1 K以上で動作するような検出器システムを構築することを目標としている。 今年度は20mm x 12 mmの1チップに100素子規模で90%以上の高い歩留りを有する素子の開発に成功した。超伝導膜には100 nm厚ニオブを用い、集中定数型の共振器構造を採用した。超伝導膜の転移温度は8 K以上であり、0.5 Kで動作させた。さらに、X線検出用の超伝導転移端センサなどで検出器感度を高めるために用いられる、マッシュルーム構造作製方法を検討した。検出器裏面のシリコン基板を深堀エッチング技術により加工することで、鉛吸収体を支えるのに必要となる極小な柱の構造の作製に成功した。 加えてより安価な冷凍機でのシステム構築を目的として、4.2 K動作可能な高温超伝導体の模索を行った。77 K以上の転移温度を持つYBCOを用いた検出器の動作実証を行った結果、共振Q値が1500程度と想定の10分の1程度しかなかったため放射線検出には至らなかった。 また超伝導共振器に陽子線(160 MeV)を照射した際に生じる影響を調べ、共振Q値、検出感度ともに劣化しないことを示し学術論文として発表した。検出器アレイの同時読出に必要な回路の開発を行い学会発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
100素子規模のアレイ検出器を動作実証には成功しているものの、測定系由来と思われる雑音が大きく、放射線イベントの検出に至っていないため。
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今後の研究の推進方策 |
放射線イベントの検出と今年度実施した感度向上するための検出器の新構造の効果を確認するために、検出器測定環境の低雑音化を行う。検出器からの微弱な信号を捉えるために低雑音・高分解能なデジタイザを用いた測定系の開発に注力する。新構造の効果が明らかになればさらなる高感度化に必要な指針を得られるため、エネルギー分解能、検出効率など検出器の性能を詳細に評価し学術論文として発表する。また、デルフト工科大学の遠藤助教の研究室に滞在し、超低雑音環境下での検出器特性評価を行うと共に、放射線検出の物理過程を明らかにする。 昨年度から引き続き、検出器の動作温度向上を目的とした超伝導転移温度が高い材料(YBCO)を用いた検出器開発を行う。現状では十分なQ値が得られておらず放射線を検出する性能に至っていないが、エッチング方法や検出形状を変更することで高温超伝導材料を用いても放射線検出できることを実証する。 これら1素子の最適化作業に加えて、カメラとして動作させるために必要な多素子同時読み出し回路の開発を行う。具体的には100素子程度を同時に動作せられるような広い帯域かつ速いサンプリング速度を持つ読み出し回路の開発を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費使用はおおむね計画通りに進捗したが、研究に集中し進捗を加速させるため学会への参加を見合わせたため旅費に残額が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
研究のさらなる進展に不可欠な、低雑音環境及び検出器システムの開発技術を習得するためにデルフト工科大学に長期滞在を行う。
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