柔軟なゴム高分子に、カーボンなどの粒子を添加することで剛性や耐摩耗性を向上でき、産業上、非常に有益な材料として広く役立てられてきた。近年、シリカ粒子を添加することでゴム材料の変形に伴う発熱を抑えることに成功し、低燃費タイヤゴムとして実用化されるに至り、環境低負荷低減への意識の高まりから利用が拡大している。これら添加粒子はゴム中で凝集したり、また互いに連結しネットワーク構造を形成したりする。これらの構造の決定に中性子小角散乱法(SANS)は有効に活用されてきた。しかし、複数種の粒子が添加された場合に、各粒子の散乱寄与が互いに重なり合うため、解析が複雑化するという問題があった。我々が開発を進めてきた水素核スピン偏極によるコントラスト変調法を用いることで、各粒子の散乱寄与を正確に分離評価でき、定性的な構造情報の取得が可能になる。但し、そのためには、コントラストの変化幅を規定している水素核スピン偏極度を従来よりも向上させる必要があった。 計画初年度には、水素核スピン偏極度向上のために電子スピンから水素核スピンへの偏極移動を促すマイクロ波照射の高出力化を実施し、シリカ充填ゴム材料に対して水素核スピン偏極度の大幅な向上に成功した。プロジェクト2年目にはこのような装置の高度化による利得を検証するべく、J-PARC 設置のSANS装置「BL15大観」において、各種ゴム材料を対象とした核スピン偏極コントラスト変調状態のSANS計測を行った。その結果、シリカの散乱寄与を消失させることに成功し、シリカおよびカーボンが共存している状態における、カーボンのみの散乱寄与を選別することに成功した。広角側のスロープのべき乗はPorod則として知られる-4乗よりもゆるい傾きを示し、ゴム中のカーボンの表面粗さがシリカとの共存によってどのように影響を受けるかについて詳細な解析を進めている。
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