研究課題/領域番号 |
25707011
|
研究機関 | 国立天文台 |
研究代表者 |
勝川 行雄 国立天文台, 太陽天体プラズマ研究部, 助教 (00399289)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 太陽物理学 / 彩層ジェット / プラズマ / 赤外線検出器 / 面分光装置 / 偏光分光観測 |
研究実績の概要 |
本研究課題では、太陽光球・彩層の観測に適した近赤外域のスペクトル線を高感度に偏光分光観測する上で必要とされる技術として、1.高感度・高速読み出し可能な近赤外線カメラ、2.偏光維持光学ファイバーを用いた面分光装置、を開発する計画である。平成26年度中に近赤外線カメラを冷却して性能評価できる設備を構築し、Teledyne社のH2RG赤外線素子とSIDECAR読出装置の低温での性能評価を実施した。素子温度-140℃から-80℃の範囲で温度を変えたときの性能はこれまで把握されておらず、本研究によって初めて明らかにしたものである。線形性やノイズ性能はほぼ期待した通りの性能を確認した。一方、-100℃より高温ではホットピクセルが著しく増加してしまうことが判明し、使用条件を明らかにすることができた。面分光装置の開発では、観測波長500-1100nmの範囲で良好な偏光保持性能を持つ矩形コア光学ファイバー束の形状について最適化検討を行った。矩形コア光学ファイバー束の製造メーカとしてアメリカの業者を選定しその試作を行い、期待された偏光保持性能を有することを示した。ファイバー束にストレスを与えずに筺体に固定するための材料の選定を行い、その候補となるシリコン接着剤による試作と透過率や偏光維持特性の評価を行った。これらの成果に基づき、彩層スペクトル線の観測に使用できる面分光装置を平成27年度に製作した。
並行して、彩層で発生する高速現象の研究を既存観測データとひので衛星・IRIS衛星で取得された彩層分光データを使って進めており、国内・国際会議での講演を行った。ゼーマン・ハンレ効果に基づく偏光線輪郭解析コードHAZELを用いてヘリウム1083 nm線の偏光分光観測で電磁流体波動を検出できる可能性について示す研究を実施した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の最重要項目である近赤外域のスペクトル線を高感度に偏光分光観測するための近赤外線カメラシステムの開発では、赤外線検出器H2RGとその読出装置SIDECARを冷却して性能評価できる設備を当初計画どおり平成26年度中に構築することができ、線形性、暗電流、ノイズなどの基礎的性能評価を完了することができた。これにより、平成27年度中に観測のための実践的な性能評価へと進むことができる。面分光装置についても、その鍵となる30μm幅の矩形コア光学ファイバー束の最適化設計と試作、及び、その光学ファイバー束を金属筺体に固定するための接着剤の選定まで完了した。当初計画では、面分光装置製作までを平成26年度中に完了させる予定であったが、矩形コア光学ファイバー束の試作が若干遅延したため、完了させることができなかった。しかし、その準備は完了したため、平成27年度に繰越すことで面分光装置の製作を完了させることができた。これにより地上太陽望遠鏡による面分光観測を実際に行う目途がたった。
ハンレ効果による彩層活動現象診断性能を実証するため、既存のデータ、及び、数値シミュレーションを使った研究を平成26年度から進めている。偏光分光観測によりハンレ効果による偏光信号を検出できれば、電磁流体波動のモードを特定できる可能性を示した。将来の太陽観測衛星SOLAR-Cによる高精度近赤外線偏光分光観測に重要な示唆を与えたと考えている。よって、本課題はおおむね順調に進んでいると言える。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究課題で開発する近赤外線カメラの基礎的な性能評価は完了したが、実際に観測に使うために、(1) 観測波長500-1100nmの範囲の検出器の感度(量子効率)、(2)高速読出(毎秒30フレーム以上)時の性能、の2点を明らかにすることを平成27年度に行う。前者については、CCDカメラ開発で実績のある国立天文台先端技術センターの量子効率測定ベンチを利用する。後者では、赤外線素子H2RGと読み出し装置SIDECARを高速で動作させるためのドライバをTeledyne社で開発中であり、その完了を待って動作検証を行う。もう一つの重要課題である矩形光学ファイバー束を用いた面分光装置の製作は平成27年度に繰越すことで完了しているため、その面分光装置の光伝達特性と偏光維持性能の実証を行い、彩層スペクトル線の面分光装置で使えるものであることを実証する。これらを組み合わせて、平成27年度中に実太陽光による観測を実施するとともに成果を国際会議等において発表する。
彩層高速現象の研究では、ひので衛星とNASA・IRIS衛星の共同観測データにおいて、黒点内の彩層ジェットによって遷移層・コロナが加熱される現象がとらえられているため、その研究を平成27年度に進め論文投稿する。ゼーマン・ハンレ効果に基づく偏光線輪郭解析コードHAZELによって、ヘリウム1083 nm線の偏光観測の有用性については示すことができたが、ゼーマン効果に感度の高いカルシウム線854nm との比較研究を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初、平成26年度中に面分光装置を開発予定であったが、そのために必須の矩形光学ファイバー束の製作に必要なガラス母材の納品が業者による指定形状の加工に時間を要したため遅延した。光学ファイバーの製作は平成26年度中に完了したため、それを組み込んだ面分光装置の製作を平成27年度繰越分を使って実施することとした。矩形光学ファイバーとそれを使った面分光装置はアメリカのCollimated Holes社で製作するが、為替変動のある場合でも確実に調達できるようにするため、基金助成金についても平成27年度に繰り越すことで購入にあてられるようにした。
|
次年度使用額の使用計画 |
平成27年度中に矩形光学ファイバー束を組み込んだ面分光装置を製作する。アメリカのCollimated Holes社で製作する予定だが、製作に先立ち、面分光装置の形状とファイバー束の配置方式についてCollimated Holes社と協議を行った上で最終形状を決定する。為替変動も加味して余剰が発生する場合、面分光装置評価のための光学実験器具やカメラの購入にあてる予定である。
|