本研究課題では、太陽光球・彩層の観測に適した近赤外線域のスペクトル線を高感度に偏光分光観測するための鍵となる技術として、1.高感度・高速読み出し可能な近赤外線カメラ、2.偏光維持光学ファイバーを用いた面分光装置、を開発する計画である。高感度偏光観測に直結する性能として赤外線検出器H2RGの感度を測定し、500ー1100nmの観測波長範囲において、量子効率0.5以上、特に波長800nm以上では、量子効率0.7程度であることを確認した。一方、H2RG素子を毎秒32フレームの高速読出できるドライバをTeledyne社と協力して開発しその動作試験を行った。低速読出時と比較してノイズ性能は劣化するが許容範囲(80ー100電子程度)であることを確認した。これにより、実際の太陽偏光分光に適用できることを実証した。もう一方の項目である面分光装置の開発では、30μm幅1.5mm長の矩形光学ファイバー束をシリコン接着剤で固定した面分光装置を製作し、最重要課題である偏光性能の評価を京都大学飛騨天文台と共同で行った。その結果良好な偏光維持性能を有することを確認できた。人為偏光の大きさが温度に依存するため、使用する際には温度を安定に保ちつつ偏光キャリブレーションを行う必要がある。
ひので・IRIS衛星で観測された黒点の彩層ジェット現象で、遷移層温度(10万度以上)にまで加熱されることを発見し、その成果を国内・国際会議で発表し現在論文を投稿中である。この現象では、磁気リコネクションによって発生したアルフベン波が高速伝播することで上空大気を加熱する可能性を提案している。コロナ加熱への影響とともに将来の高精度偏光分光観測の重要性を示唆している点で重要な発見であると考えている。
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