研究実績の概要 |
ニュートリノのマヨラナ性を証明することで, 素粒子物理学に残された「軽いニュートリノ質量」と「物質優勢宇宙の謎」という大きな問題を解決に導く事ができる. ニュートリノのマヨラナ性を示すためには, 特定原子核 (例えば76Geや136Xe)のニュートリノを放出しない二重ベータ崩壊を検出すれば良い. 本研究は, 136Xeを用いた実験 (KamLAND-Zen)の高感度化のために新技術を開発し, 超高感度なマヨラナ性検証実験を行うことを目標とする. 本研究で開発を進める新技術は「光るバルーン」と「イメージングカメラ」である. バルーンは136Xeの容器として使用するもので, バルーンに含まれる214Biが214Poに崩壊する際に, ニュートリノを放出しない二重ベータ崩壊と同じエネルギー帯域にβ+γ線を放出する. バルーンがシンチレーション機能を持てば, 214Poが210Poに崩壊する際のα線を検出で, 遅延同時計測で214Biのバックグランドを除去できる. 全年度まではポリエチレンナフタレート(PEN)フィルムが化学的に我々の要求を満たす性能を持つ事を確認した. 本年度は, 溶着試験を行い機械的な性能も要求を満たすことを確認した. さらに, 発光の時定数を測定して, 液シンと有意な違いがあることを確認した. イメージングカメラはニュートリノを放出しない二重ベータ崩壊が点事象なのに対して, γ線をともなうバックグランドが広がりを持つ事象なのを識別する装置である. 本年度は, 1/2スケールの試作品を開発して, 設計通りの収差を実現できていることを確認した. また, 反射率に問題があるので. βとγ線の識別実証のために再製作を必要であることもわかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画に記載された光るバルーンの開発に必要な基礎実験 (発光量, 透過率, 強度, 溶着方法開発)を予定通りに終えることができた. やや遅れていたイメージングカメラも試作品を製作し, 基礎的な光学性能を実測することに成功した.
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今後の研究の推進方策 |
光るバルーンの基礎測定はほぼ終了したので, 焦点をイメージングカメラに移す. 高い反射率を持つように再度, 光学系を製作する. そして, 新光学系とマルチアノードPMTを用いて, 信号を模擬したストロンチウム90のβ線とバックグランドを模擬したコバルト60のγ線を, 本研究の提案するイメージングの方法で識別できることを実証することを目指す. また, 将来の液体シンチレーション型反電子ニュートリノ検出器へ向けた方向検出のR&Dにも本装置を応用する. イメージングカメラと20lのリチウム含有液体シンチレータで逆ベータ崩壊の後発イベントを模擬した252Cfの中性子の測定を行う予定である.
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