研究課題/領域番号 |
25707015
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
関谷 洋之 東京大学, 宇宙線研究所, 准教授 (90402768)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 暗黒物質 / キセノン / 電荷増幅 / 素粒子実験 / 宇宙線 |
研究実績の概要 |
神岡の地上研究施設で、昨年度構築したパルスチューブ冷凍機を用いたキセノン液化システムを用い液体キセノンTPCの開発を推し進めた。 まず、約500 cc の液体キセノンを検出器に導入し、0.016 MPa、-106.1 ℃で2日間以上保持することができた。このキセノンの状態で241Am線源からの59.5keV γ 線を用いてS1 光量を測定したところ、8 p.e./keV と求められた。これはXMASS検出器とほぼ同等な値である。次にTPC の検証として昨年度開発したGlassGEM 電極に電圧を印加しS1 光量のドリフト電場依存性を調べた。その結果、1.2 kV/cm のドリフト電場に対して、40 %のS1 光量の低下が観測された。これは先行研究と矛盾のない数値であり、GlassGEM 電極によって液体キセノン中に期待通りのドリフト電場を形成できた。一方、ドリフト電場を0.4kV/cm 、GlassGEM電極両面間に2.5kV の電位差をかけてS2 発光のための電場として37kV/cm を形成した状態でS2発光の測定を試みた。しかしながら今回のTPC プロトタイプではS2 の発光は確認できなかった。A. BreskinたちがThickGEM 電極を用いて電荷増幅を報告しているが、ローカルに存在するガス中で起きていると思われる。 さらに効率よく実験できるようにフィードスルーや低温で使用できるケーブルのスクリーニングも開始したところであり、より高電圧をかけた実験を、来年度早々に行う予定である。 一方、ワイヤー電極による高電圧印加については、主に名古屋大学で検討を進めた。10 μmの直径のワイヤーをつかったシステムをアルゴンガス中で動作させ、検証を行ったので、液体キセノンへの導入の準備が整った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
液体キセノン中へ電場を印加し、TPCとして動作させることに成功し、開発上の重要なマイルストーンに到達した。GlassGEMでのS2は観察されなかったが、これは想定の範囲内であり本命のワイヤー電極の開発もすすんでいる。
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今後の研究の推進方策 |
まずは装置の取り回しの改善を図る。低温部から常温真空部へのケーブル、フィードスルーの取り回しが面倒で繰り返し実験をするのが手間となっているので、改良し開発の効率化をおこなう。 液中比例蛍光S2を観測するには、引き続き、電極や電極への電圧印加の機構を開発する必要がある。直近の改善案はGlassGEM電極を、より耐電圧性の高いガラスであるPEG3Cを用いたGlassGEM に変更することや電圧印加の端子部分とGlassGEM の間の固定をより太いPEEK ねじを用いて強固にすることがあげられる。またGlassGEM 以外の電極としてタングステンワイヤーを用いた電極の開発がほぼ完了しているので、これを導入して確実にS2の検出を行う予定である。 これらの測定を通じ、最終的にどのような電極を導入するのがよいのかを見極める。その結果を踏まえ、どのような形状の検出器をするか、電場構造シミュレーションも行いながら決定する。シミュレーションにはこれまで行ってきたFEMTETを引き続き使用する。以上の結果を含め、キセノン容器を再度製作し、光電被覆率も再度みなおしたプロトタイプ検出器を製作する。これを使用し、動作パラメータ(電場、電極距離、温度等)の最適化を行い、本実験に備える。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は、昨年度までに組み上げたセットアップを用いて、まずは液体キセノンTPCとして動作させることに専念したため、新たな検出器の製作に投資しなかった。動作確認をして装置として使いにくい部分等の洗い出しはできたので、来年度は、真空容器やフィードスルーといった高価な部分の改良に取り組む。
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次年度使用額の使用計画 |
以上に述べたように、おもに液体キセノンチェンバー、耐高電圧フィードスルー、低温高電圧同軸ケーブルといった特殊仕様の部品を購入する計画である。
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