キセノンを用いた暗黒物質の直接探索実験では、検出器全体から定常的に発生するラドンを長時間にわたり連続的かつ選択的に除去することが必要不可欠である。本研究では、共鳴イオン化技術を用いたラドンの選択的除去システムの構築を目指し、ラドンの1光子共鳴励起に必要な高出力・狭線幅・波長安定性に優れたナノ秒パルス真空紫外レーザーの開発が主な目的である。 平成27年度は、昨年度に引き続きKr/Xe混合ガスセルを用いた共鳴四波混合により、波長212.5 nm及び396.7 nmの入射光からラドン1光子共鳴励起波長145.2 nmの真空紫外パルスレーザー光を生成した。生成した真空紫外光を入射光及びラドンイオン化用の波長355 nmパルスレーザー光とともに飛行時間型質量分析計に導入し空気中のラドン測定を試みたところ、波長212.5 nm入射光に起因する非共鳴バックグラウンドが大きく、ラドン共鳴イオン化の有意な信号は観測されなかった。MgF2プリズムを用いて真空紫外光を波長分離したところ約20 μJ/pulseと十分な真空紫外光出力が得られており、入射光を分離して質量分析を行うことでS/N比が大きく向上されると考えられる。 また、真空紫外光生成に用いた波長212.5 nm入射光は、波長を微調整することでKr共鳴イオン化に使用できることから、XMASS検出器の気相Xeガスに含まれる不純物Kr濃度分析を合わせて実施した。5年ほど前に採取されたXe試料ガスに対して、マスフローコントローラにより流量を調整した状態で一部を超音速分子線バルブから飛行時間型質量分析計に導入し、84Krの共鳴イオン化スペクトルを観測した。キャリブレーション結果と比較してXe試料ガス中のKr濃度は約100 ppt(測定誤差約7%)と得られた。
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